赤ちゃんの頭の歪みを矯正する「ヘルメット治療」がXで広く話題になっている。治療を受けさせる親を揶揄するような声が一部で上がり、「子供の将来考えたら全然アリ」「いろんな経緯で治療するんです。バカにしないで欲しい」などと反対意見も散見される。
治療自体を知らなかったという人も出る中、医師にメリットやデメリットを取材した。
「それぞれの家族の価値観で決めるのがよいこと」
ヘルメット治療を行う慶應義塾大学病院「小児頭蓋顔面センター 赤ちゃんの頭のかたち外来」の公式サイトによると、そもそも赤ちゃんの頭に変形がある原因は、骨が早期にくっつく稀な病気「頭蓋縫合早期癒合症」と、いわゆる「絶壁」を含め、分娩や向き癖(寝ぐせ)など外部からの圧力で歪む「位置的頭蓋変形」の2つに分かれるという。後者の歪みを改善するため、頭蓋骨が柔らかい生後2~6か月頃からヘルメットを着用し、きれいな頭の形に誘導させるのがヘルメット治療だ。
同院の担当医師、形成外科の坂本好昭(さかもと・よしあき)氏が2025年7月25日にJ-CASTニュースの取材に応じた。坂本氏によると、治療の仕組みとして、頭蓋骨に力を加えて形を整える「アクティブタイプ」と、圧迫せず扁平化した部分の成長を促す「パッシブタイプ」の2種類がある。坂本氏が知る限り、パッシブを採用する施設が多い状況だという。
ヘルメット治療の1番大きなデメリットは金額面を挙げる。健康保険が適用されない自費治療のため相場は約30~60万円と安くはない。ほかには、どのヘルメットを使うにしても日本の気候では「あせも」のリスクがあるといい、メーカー各社の課題だとした。メリットは「適切な時期に治療を行えばきれいな形になる率が高い治療」とし、逆に言えば、適齢期以外に行うと費用対効果が極めて悪いとも補足する。
坂本氏は、ヘルメット治療の是非をめぐり、次のような見方をしている。
「本治療は自費診療になります。絶対に行わないといけないものではありません。そのためやるかやらないかという意見がいろいろあり、それぞれの家族の価値観で決めるのがよいことであり、そのことに対してそれぞれの選択を尊重すべきだと考えております」
重症度は4段階、向き癖で病気にはならない
頭の変形の重症度は大きく4段階に分けられることが多く、3度や4度と重症の場合でも、向き癖によって病気が起きることは無いという。ただ将来的に、耳の位置が変わってメガネを上手くかけられなかったり、アゴの関節の位置が変わって顎変形症や嚙み合わせの不具合が生じたりする可能性はあり得るとした。大人になって美容整形を受診し、頭の歪みが判明することもあるという。
治療を迷う保護者には、治療適齢期以前の予防策も非常に大事だとアドバイス。「赤ちゃんをベッドに寝かせておくだけでなく、ぜひ、スキンシップを兼ねて抱っこなどをする時間を増やしていただくと良いですね」と呼びかけた。
仮に治療しなかった場合にどれほど良くなるかは個人差があるため比べられないとしながら、軽い1度や2度では自然に改善する可能性が高いとみている。
一方、「ビジネス目的」でヘルメット治療に誘導する施設があると注意を促す。軽度であっても売り込まれるケースや、過去に慶應義塾大学病院を受診した患者のなかには、別の病院でレントゲン撮影や病気の鑑別をされないままヘルメット治療を始めたが、1年経っても頭の形が治らないとして助けを求めてきた事例も。実は頭蓋縫合早期癒合症で、手術が必要と分かったという。
病院選びのポイントは?「大病院だから大丈夫というわけではなく」
ヘルメット治療の希望者には「ビジネス目的」ではない施設での治療を勧める坂本氏。ヘルメット治療を行うにあたっての赤ちゃんの頭の形の治療経験は十分か、金額だけで判断せず慎重に施設を選択してほしいという。もともと日本では頭蓋縫合早期癒合症のスクリーニングの一環として10年ほど前に導入された治療法だとして、病気との鑑別・治療ができる病院あるいはクリニックに相談するのが良いとしている。
「大病院だから大丈夫というわけではなく、しっかりと病気(頭蓋縫合早期癒合症)かどうか鑑別もできるところ=病気の治療をしているところか、赤ちゃんの頭の形に特化したクリニックで診察されるのが良いと思います」