自動車メーカーは2年ごとのマイナーチェンジの合間やモデルチェンジ前に特別仕様車を発売することが多い。レクサスのように、ほぼ毎年、特別仕様車を発売するメーカーもある。モデル末期の特別仕様車は割安メーカーが特別仕様車を展開するのは、新車の発売から時間が経過し、販売台数が落ち込むからだ。言わば販売台数の落ち込みを食い止めるカンフル剤として、豪華なアクセサリーや特別なボディーカラーなどを施した特別仕様車を発売する。一般にモデル末期の特別仕様車は装備品に照らして割安なことが多い。これは次の新車の発売前で、現行モデルを売りさばくための常套手段だ。これに対して、マイナーチェンジの合間に行われる特別仕様車は、装備品に照らして、必ずしも割安とは限らない。普段ならオプショナルパーツとして購入するような部品が標準装備となり、一般的には割安となる場合が多いが、自分には必要ない部品まで標準装備となり、買わされる場合だってある。ユーザー目線で考えるなら、特別仕様車の購入は、その装備品が自分に必要かどうか、支払うだけの価値があるかどうかで決めるべきだろう。ポール・ニューマンを起用した日産の戦略は自分に必要ない余計な部品まで特別仕様車に標準装備となっているなら、もちろん購入する意味などない。それとは逆に、特別仕様車には購入価格を超え、付加価値が付く場合がある。例えば、1980年代の日産スカイラインは俳優のポール・ニューマンがCMキャラクターを務めていた。このため、当時の6代目スカイラインは「ニューマン・スカイライン」と呼ばれ、人気を博していた。当時、日産はスカイラインに「ポール・ニューマン・バージョン」という特別仕様車を設けた。ポール・ニューマン本人をCMにも登場させ、「ポール・ニューマンと日産の意見が一致した」などと、特別仕様車の装備を紹介した。しかし、現実にはボディーサイド(フロントドアの後方)やエンジンフード、テールランプの横などにポール・ニューマンのサインをデカールとして貼ったくらいで、ノーマルの「スカイライン2000GTターボ」と大差なかった。それでも、ポール・ニューマン・バージョンはファンの心をつかみ、飛ぶように売れた。これは当時の日産の巧みな戦略で、ポール・ニューマンの知的でスポーティーなイメージを高性能なスカイラインと重ねることに成功したのだ。スカイラインのポール・ニューマン・バージョンが現在、何台現存しているかわからないが、中古車市場では今も想像を超える価格で取引されている。WRC参戦メーカー特別仕様車の付加価値現在の日産にも、そんな付加価値を生むクルマと巧みな戦略があればと願うが、残念ながら、現実は今の体たらくだ。ともあれ、本来の特別仕様車は単にアクセサリーを満載したクルマであってはならない。かつて1990年代から2000年代にかけ、世界ラリー選手権(WRC)に参戦したトヨタ自動車、SUBARU(スバル)、三菱自動車工業などは、ほぼ優勝するごとに特別仕様車を発売していた。今になって思えば、日本車の絶頂期だった。トヨタやスバルなどはモータースポーツの戦績から来る高性能なイメージを市販車に結びつけることができた。競技用の部品の一部を市販車に取り入れた当時のWRC参戦メーカーの特別仕様車は、付加価値が高く、今も中古車市場で高く取引されている。今ではモータースポーツの戦績に連動した特別仕様車など、トヨタやスバルなど一部のメーカーに限られる。もちろん少数派に属するが、それゆえにリセールバリューを考えても、購入する価値はあると筆者は考える。換言すれば、ユーザーが特別仕様車の付加価値を理解し、購入するだけの価値があると判断できるなら、特別仕様車を買っても損はしないだろう。きっと価格に見合った満足感を得られるはずだ。そうでなければ、当たり前だが、見送るべきだ。(ジャーナリスト 岩城諒)
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