大阪・関西万博に参加している158か国・地域のうち、SNSで際立った存在感を見せているのが太平洋の島国、ナウル共和国だ。独特の発信が人気で、政府観光局のXでは約55万人のフォロワーを抱える。万博のナウル館は、共同館パビリオン「コモンズB」の一角にある。開幕直後の2025年4月には、展示物が届かず何も乗っていない台座を「心が綺麗な人は台の上の展示物が見えるはずです」と説明、「ナウル台座」として話題になった。会期終盤の9月中旬時点では、来場者が寄贈した公式ゆるキャラ「ナウルくん」の自作のイラストやぬいぐるみなど、ファンアートが所狭しと並んでいる。ナウル館で副館長の役割を務める、Xアカウントの「中の人」に、パビリオンで話を聞いた。来場者は「参画したい」、万博側は「暗黙で許したり、フレキシブルな現場判断」ナウルは人口1万2000人ほどで、世界で3番目に面積が小さい国。19年に観光公社が立ち上がり、「中の人」は外務省系の団体に勤務していた関係でナウルの大統領と面識があったことから、日本での立ち上げに携わった。その直後にコロナ禍が本格化。やむを得ずSNSに注力する中で多くのフォロワーを獲得することになった。今のナウル人気を支えている要素のひとつが、ゆるキャラだ。実は21年3月には、「芽が出たヤシの実をイメージ」した「ナウルん」が誕生したが、25年6月に「財政難のため」リストラされ、ナウルの島の形をした「ナウルくん」がお目見えした。ナウルんのヤシの実では、他の太平洋諸国と差別化できないことが課題だったという。そのため、万博を機会に「ナウルっぽいのを作らないと」「島の形だったら意味があるし、覚えてくれる」と、「5分ぐらいで」考えた末に生まれたのがナウルくんだ。5月には、バルト館の入口にあった万博公式キャラクター「ミャクミャク」のぬいぐるみが盗まれ、それを聞いた来場者から多数のミャクミャクのぬいぐるみが寄付されるというハプニングもあった。その後、特段の呼びかけはしなかったが、自然発生的にナウルくんのファンアートを「作ってきました」と持ってくる人が増えたという。「中の人」は、来場者の「万博に参画したい」思いに加えて、万博側の「暗黙で許したり、フレキシブルな現場判断」が受け入れられる風土が、この環境をつくっているとみている。今では「ナウル台座」の上にはもちろん、棚の中に飾られている、本国から届いた展示物の周辺にも、多数ファンアートが置かれている。展示物は「実はナウルとしては国宝級」なのだという。ナウルに国宝を指定する制度はないが「国立博物館のいいものを持ってきている」そうだ。いまだ届かぬ展示物も...「本国から連絡しないと救出できないらしい」ただ、輸送中に滞留して現時点でも届いていない展示物が1点あり、「真剣に救出するか考えている」「本国から連絡しないと救出できないらしい」「何を送ったか教えてくれない」という状況。閉幕までに全部の展示物がそろう可能性は低そうだ。万博閉幕後もナウルくんに触れる機会はありそうだ。ナウル館は、交流がある東大阪市内の商店街の一角に移設する方向で調整している。これ以外にも、銚子電鉄(千葉県銚子市)駅舎に「日本ナウル友好記念博物館」が設けられる予定。さらに、「ナウルエキスポ」のようなイベントを、全都道府県の公民館のような施設で展開したいとしている。グッズも多数売り出されており、こういった活動の費用にあてる予定だ。こういった活動の広がりは、SNSのあり方にも影響を与えている。以前は、寄せられる意見に反論することも多かったが、今は「自治体との連携の話が10個ぐらいあり、そこに迷惑が行ってしまう」。そのため、基本的には「ご意見ありがとうございます」でとどめるようにしているが、「批判してくれるのはありがたい。言う人がいるということは、思っている人は1000人いるということ。真摯に受け止めています」と話していた。警察沙汰もあった。5月には、Xユーザーが会場に突撃するかのような投稿をして、ナウル館が大阪府警などに警備強化を求めた。このユーザーが実行の意志を否定して謝罪したこともあり、被害届は出さなかった。「中の人」にとっては、この件以外は万博は素晴らしい体験だったようだ。「万博は、1人突撃しようとした人がいた以外は、何も悪いことありません。めちゃくちゃ楽しいです」(J-CASTニュース編集委員兼副編集長工藤博司)
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