「おこめ券」をめぐる混乱が続いている。配布に踏み切る自治体がある一方で、見送る判断を下した自治体も少なくない。国民の反応も賛否に分かれ、政策としての扱われ方が揺らいでいる。おこめ券は「全国一律の支援」ではないおこめ券は、名前のとおり主にコメの購入に使える商品券である。これは、2025年11月21日の閣議決定で明記された「重点支援地方交付金」の拡充により、物価高の中で自治体が柔軟に使える財源を増やし、食料品購入支援を国として推奨するという方針によるものだ。つまり、交付金を増やすことで、おこめ券の活用を国が後押しした格好になる。そのため、おこめ券の配布を実施するかどうかは、各自治体の判断に委ねられている。交付金を活用して全世帯に一律で配布する例もあれば、住民税の非課税世帯など特定の層に絞る自治体、さらには宮城県のように、現時点でおこめ券の導入自治体がゼロというケースもある。自治体の判断が分かれた理由のひとつに、実務負担の大きさが挙げられる。おこめ券を配布する場合、券の調達、発送、問い合わせ対応など、さまざまな業務にコストが発生するためだ。さらに、このおこめ券はJA全農と全米販が販売しているもので、1枚500円で購入すると440円分の米や米関連商品(店舗によっては他の食料品)を購入できる。差し引かれる60円は印刷代や流通経費などに充てられるため、家庭に届く金額は相対的に目減りする。おこめ券の配布見送りの判断を下した福岡市の高島宗一郎市長は、「(60円を引かれる)コストに対しては国として問題意識をぜひ持っていただきたい」と述べ、下水道料金の2か月無料化などを実施する方針を示した。こうした批判を受け、JA全農は重点支援地方交付金を活用する自治体向けに、おこめ券の販売価格引き下げを発表し、全米販も同様の方針をとることが報じられている。それでも鈴木農水相は「活用を検討してほしい」と繰り返すおこめ券をめぐっては「利益誘導ではないか」といった批判も上がり、制度の背景や政策上の優先度について説明を求める声が強まった。もともと石破政権下では、コメ不足による価格高騰を受け、増産を進める方向性が示されたと報じられた。一方で、高市政権では生産調整を再び進める案が議論されるなど、政策の舵が短期間で変化したと指摘されている。こうした中で突如注目を集めたのが、おこめ券である。政府の説明不足もあって、コメ政策をめぐる混乱が広がっている。その一方で、鈴木憲和農水相はおこめ券の活用を繰り返し呼びかけてきた。12月13日に地元・山形で記者団の取材に応じた際には、「コメ以外の食料品も買うことができる。そこを踏まえ、どの手法が食品高騰に対する地元の負担軽減に役立つか検討してほしい」と述べ、紙券の位置付けを丁寧に説明した。とはいえ、事前に十分な配布体制を整えておくことは、本来政府の役割だったはずだ。コメ不足に対する根本的な問題は解決しない石破前総理は、12月12日にTBSのCS-TBSおよびYouTube「国会トークフロントライン」に出演した際、おこめ券について、「税金の使い方としてはいろんな議論を呼ぶでしょうね」とコメントした。そもそも米価が上昇した背景には、「生産がぎりぎりだった」「農業者の高齢化や減少が進んでいる」といった構造的な課題があるとして、おこめ券の配布だけでは根本的な解決にならないと指摘したのである。高市総理はこうした空気をよそに、12月9日の衆院予算委員会で「農水大臣が大好きなおこめ券かもしれない」と冗談めかした発言をしたが、生活者が安心できる仕組みが脆弱なまま露呈した今回のケースは、もはや笑い事では済まないのではないだろうか。
記事に戻る