高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる発言以降、日中関係は冷え込んでいる。2025年12月29日、中国軍は台湾周辺で大規模な軍事演習を開始し、台湾独立の動きや域外勢力の関与をけん制する姿勢を鮮明にした。こうした動きは政治・安全保障にとどまらず、日本経済にも無関係ではない。仮に日中関係がさらに悪化した場合、日本の産業はどこまで影響を受けるのだろうか。観光業のダメージは想定より少ない?こうした動きのなかで、真っ先に懸念されたのは、中国側による日本への渡航自粛の呼びかけなどが観光需要を冷やし、インバウンド関連に打撃が出ることだった。しかし現時点では、少なくとも観光全体が想像以上に大きく崩れているとは言いにくい。京都市内主要ホテルでは、2025年10月の客室稼働率が90.0%に達し、コロナ禍以降の最高値を更新した。宿泊需要は外国人が全体を押し上げ、国・地域別では米国の比率が最も高いとされる。もちろん、中国団体客に強く依存してきた一部の事業者には痛手が出得る。それでも、市場が多極化した現在、観光全体としての耐性は以前より高いと言える。では、農林水産物や食品はどうか。東京電力福島第一原発での処理水放出を理由に中国が日本産水産物の輸入を停止した影響もあり、2024年の対中輸出が大きく落ち込んだことは事実だ。一方で米国や東南アジア向けが伸び、2024年の日本の農林水産物・食品輸出は過去最高を更新している。中国市場への依存度を下げていたぶん、単一市場の失速が全体を直撃しにくくなっている面はある。ただし製造業、とりわけB2Bの輸出やサプライチェーンとなると話は重くなる。不買運動、規制、認可の遅れが収益圧迫日本の対中輸出は近年減少傾向が続いているが、中国が主要市場の一つであることに変わりはない。機械・電気機器、輸送機器など、中国が大口取引先である分野は依然として多い。また製造業の場合、中国を生産拠点として使っているのか、販売先として依存しているのかでリスクの性質が異なる。生産工場への依存であれば、時間はかかってもASEANやインドへ移転する余地がある。しかし、売り先として中国に依存している場合、不買運動、規制、認可の遅れといった形で影響がじわじわ収益を圧迫する。急落とまではいかずとも、長期的には確実に効いてくるリスクだ。"ドル箱市場"を失いかねないエンタメ関連業そして、より脆いのがアニメやライブビジネスなどのエンタメ関連業かもしれない。中国は日本のコンテンツにとってファン人口も課金規模も大きい市場だが、同時に政策判断でアクセスが急変しうる市場でもある。実際、2025年11月には中国で浜崎あゆみさんはじめ日本人ミュージシャンの公演が中止された。会場側に対して、年内の日本人公演を控えるよう求める趣旨の動きがあったと報じられている。こうした事例は、「当たれば大きい」一方で「許可されている間だけ成立する」という不安定さを浮き彫りにする。ここでコロナ禍のときのような「ライブができなくても配信がある」という方向に舵を切ることはできない。中国のインターネットはグレート・ファイアウォールというシステムで規制されており、たとえばYouTube、Netflixなどの配信サービスは利用できない。ライブも配信も同時に止められてしまうようなエンタメ分野は代替市場が見つけづらく、リスクが相対的に大きいということになる。市場を分散させるリスクヘッジが取れているかでは、日中関係が冷え込んだ現在、日本のビジネスはどう向き合うべきか。「中国市場を完全にあきらめるかどうか」という単純な選択ではなく、中国を「選択肢のひとつ」に位置づけ直すことだ。中国で「当たれば大きい」が、「当たらなくても事業が回る」構造を作ることを考えなければならない。それは、市場の分散、ビジネスモデルの多層化、そして売り先の多国籍化といった、現実的な選択肢を増やす方向性を早急に見つけられるかどうかが、リスク回避のカギとなる。中国市場は巨大で魅力的である一方、依存した瞬間に最大のリスクへ変わりうる。今回の動きは、その現実を改めて示しているということではないだろうか。
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