高市政権の「責任ある積極財政」について、円安の懸念が指摘されている。悪夢の民主党政権時代に、円高で多くの企業が倒産したりして日本経済がボロボロになったことを忘れて、円安批判とは筆者には理解できない。
他国から文句がなければ放置した方がいい
円安は日本経済の成長を高まるというのは歴史的事実だ。これは、古今東西「近隣窮乏化」として自国通貨安は自国経済に有利だが他国経済には不利となることで知られている。各国や国際期間でもマクロ経済モデルでも、その効果は数量的に確認されている。ちなみに、直近30年間の為替(円/ドル)と名目GDPのデータを見ると、それらの相関係数は+0.84となっており、10円円安で名目GDP13兆円程度アップだ。そのため、自国通貨安について他国から文句が来るのであれば対応が必要だが、文句がないなら放置し国益を追求した方がいい。
円安の弊害は輸入価格高であるが、これも直近30年のデータを見ると10円円安でもインフレ率は0.5%程度上昇するに過ぎない。日本経済は内需の割合が多く輸入物価の影響は限定的だ。むしろ、その悪影響を上回る財政収入メリットがある。ちなみに、為替と一般会計税収の関係を見ると、それらの相関係数は+0.69と高く、10円円安で税収4兆円程度アップなので、円安になると財政が楽になるのは財務官僚であれば常識である。
円高は悪者視せずにメリット活用を
さらに、日本政府は150兆円以上の外貨準備を持っている。これはほぼドル債なので、円安になると含み益が発生する。これが高市首相の「ホクホク」発言だ。具体的には10円円安で追加的に15兆円以上の含み益があり、売却すれば円買いドル売り介入となるとともに含み益が実現益になる。国家の主権としてそれを行うかどうかは日本政府の自由である。また、中期債なので自ずと償還期限が来る。償還すれば介入とはいわれずに含み益を実現益とできる。いずれにしても含み益は実現益にできる。フローの財政収入とストックからの実現益を国民に還元しつつ、物価高の対策をすればいい。円安を悪者視するのは誤りで、そのメリットを活用すべきだ。
なお、円安が経済を好転させるので推測できるが、社会面でも円安のメリットはありそうだ。直近30年間の為替と就業者数をみると、相関係数は0.65であり10円円安で就業者数66万人程度増えることが示唆されている。また、為替と自殺者数のデータを見ると、相関係数は▲0.35となっており、これも10円円安で1100人程度自殺者数程度減少する円安メリットが示唆される。
++高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはしよういち)元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。