「なんとなくダメだろう」という主観だけで判断?
岩尾さんの不満は、現在のテレビ業界の病を的確に指摘しているといえるかもしれない。スプーンという素材を使ったコメディが、どの点で伝統工芸品の尊厳を傷つけるのか、その判断基準が不明確なままで却下されたということだ。つまり「心の尺度」で「なんとなくダメだろう」という主観だけで判断しているという実態である。
テレビ界は発言や映像のキリトリに対する炎上を恐れるあまり、根拠のない却下を繰り返し、過度な「予防線」を張るようになった。視聴者の苦情に対応するのではなく、「伝統工芸品だから」「女性に失礼だから」「誰かが言うかもしれない」という推測で先回りしてチェックを厳しくする「倫理のモグラたたき」状態だ。結果、制作現場は萎縮し、芸人たちは何ができるのか分からない状態に陥っている。
その指摘は放送倫理に基づくものではなく、ネットに書き込むユーザーと同等、もしくはそれを上回るいちゃもんといえるか。およそ本来のコンプライアンスの目的から逸脱している。
最も危険なのは、この曖昧な基準の拡大再生産である。「今だったらアウト」という判断が5年後、10年後にどこまで厳しくなるのか。テレビ番組全体の表現力が確実に低下し、結果的にテレビへの信頼を自分たちで奪っている。
深夜や早朝の放送休止時間、または事故発生時の緊急つなぎとして流される、自然の風景などの映像の総称を「環境映像」、または「フィラー」という。過度なコンプラチェックで萎縮させられた「安全性を優先した、何の感情も呼び起こさないように無難に作られたコンテンツ」は、まさにそれと同じなのである。
(川瀬孝雄)