2026年3月29日に投開票された西宮市長選は、現職の石井登志郎氏が自民党と日本維新の会が推薦する元西宮市議の田中正剛氏を655票差で破り、当選した。
一方で、今回の市長選で政策論戦と並んで、にわかに注目されたのが、候補者の写真がなく、自民党の高市早苗総裁や日本維新の会の吉村洋文代表の顔写真が大きく掲載されたポスターやチラシだった。「候補者不在」とも言われた選挙戦。J-CASTニュースの記者が現地取材した。
候補者不在のポスターやチラシが
兵庫県西宮市は、人口約50万人が住む中核市だ。市長選は2期務めた現職の石井登志郎氏に、新人2人が挑む構図となった。新人は自民党と日本維新の会が推薦する元西宮市議の田中正剛氏、無所属で障害者団体会長の畑本秀希氏。争点は、厳しい市財政の立て直し、待機児童の解消をはじめとする子育て支援などが挙げられた。
話題となったのは、自民党と日本維新の会の推薦を受けている田中氏を後押しするポスターやチラシだ。
選挙戦の告示前には、田中氏と高市総裁の2連ポスターで、その中で来年5月に街頭演説会を行うとの告知が街中で見かけられるようになった。選挙戦が始まってからは、街中に自民党総裁肩書で高市氏の顔写真とともに「私たちの応援する市長候補へあなたの1票を」と書かれたポスターが貼られ、市内の郵便受けには、高市総裁と吉村代表の顔写真とともに同様の文言が書かれたチラシが配布された。
ネット上には「誰の選挙やねん」「西宮市長選挙は吉村と高市が立候補してるん」「市長候補者の名前も顔も出ない市長選って何」などの投稿が見られた。
公明党の辻義隆・大阪市議は23日、自身のXで「この手法は、石川県知事・馳浩の選挙でも採用され、大きな逆効果を招いたはずだ」と指摘した。
現職、大きな政党を相手に「心の揺らぎが」
選挙戦最終日の3月28日、主要候補のマイク納めを取材した。
現職の石井候補は、阪急の西宮北口駅の近くで演説。「国政選挙で大きな勝利を収めた政党が、私ではない方についた。正直に言って、なかなか心の揺らぎはなかったと言ったら、嘘になる」と吐露。
「もしかしたら(いままで応援してくれた人が)私の応援をしないと言うんじゃないかと思ったが、いい意味で思い違いだった」
と語った。
演説では、8年間に積み上げた実績を訴えて「私、石井登志郎が裸で、政党でなく組織ではなく、一人ひとりと向き合いたい、そうした中でお支えいただいている西宮市民と力強さと心強さを感じた」と述べた。演説には、兵庫県川西市の越田謙治郎市長、国民民主党の向山好一衆院議員らが駆けつけた。
田中氏は、JR甲子園口駅前のロータリーで最後の訴えを行った。22日に日本維新の会の吉村代表、28日には藤田文武共同代表が応援演説して、大阪の隣である兵庫での勢力拡大に力を入れていた。
田中氏は、
「自民党や日本維新の会から推薦を受けているから通るんだろうと、そんな甘いこと私は考えていません」
と述べ、「大抵の場合は、現職に政権与党がつくことが多いが、私の思いについてくれた。それは、ひとえに今の市政がまずい、あかん、そういうふうに認めたと私は思う」と語った。
また、22年間の西宮市議としての経験から「利権を守るために私たちの税金が食い潰されている」と訴えた。
新人候補の演説に抗議の声
演説場所では、一部の抗議する人たちがいて、旗を振ったり、「嘘つき田中」などと野次を飛ばしたりする様子が見られ、警察官も駆けつけて対応していた。
抗議する人たちに、田中氏は、
「今日もいろいろと妨害されていますけれども、少し黙ってほしい。でも、それを聞いてくれない」
と触れ、「反対する人たちが声を上げる、いいんですよ。別にそれは自由ですから、しかし、そこに屈してはいけないと私は思う」と述べた。
畑本候補は、脳性まひの長男がおり、介護業界に携わった経験から「西宮を世界の福祉モデル都市に」と訴えた。
今回の選挙戦では、高市氏や吉村代表の顔写真を大きく掲載したポスターやチラシが街中で多く見られ、政党色が色濃く出た。与党党首の顔写真を全面に押し出した候補が敗れたことは、高市政権、与党の追い風を地方選に持ち込む難しさが浮き彫りになった。