ハンタウイルス「感染拡大リスクは低い」と言うが 新型コロナ「パンデミック」判断遅れたWHOテドロス氏

   大西洋を航行していたオランダ船籍のクルーズ船・ホンディウス号で、ハンタウイルスの集団感染が発生した。

   この集団感染に対する世界保健機関(WHO)の対応について、世界中でさまざまな意見が交錯している。

  • ハンタウイルスの集団感染疑いがあるクルーズ船「ホンディウス号」がスペイン・カナリア諸島に入港(写真:ロイター/アフロ)
    ハンタウイルスの集団感染疑いがあるクルーズ船「ホンディウス号」がスペイン・カナリア諸島に入港(写真:ロイター/アフロ)
  • コロナ禍の際、政府が国民に配った布製マスクは「アベノマスク」とも呼ばれた
    コロナ禍の際、政府が国民に配った布製マスクは「アベノマスク」とも呼ばれた
  • ハンタウイルスの集団感染疑いがあるクルーズ船「ホンディウス号」がスペイン・カナリア諸島に入港(写真:ロイター/アフロ)
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ヒトからヒトへの感染が確認されたアンデス株

   通常、ハンタウイルスはネズミなど齧歯(げっし)類の排泄物を介して感染する。ヒト同士の感染は起きないとされ、感染力はそこまで強くないとされてきた。

   しかし、今回船内で検出された「アンデス株」は、患者間の密接な接触によるヒトからヒトへの感染が確認されている特異な変異型だと言われている。

   ホンディウス号は4月1日、乗客114人と乗員を乗せてアルゼンチンを出港した。4月6日にひとりの男性が発熱や頭痛を訴え、11日に死亡。当初、男性の死因は自然死と判断された。

   ホンディウス号はその後、新たに6人の乗客を乗せ、24日にイギリス領セントヘレナ島に寄港した。ここで死亡した男性の遺体が降ろされ、男性の妻を含む30人が下船した。

   しかし、26日になり、下船した男性の妻が離陸前の航空機内で体調を崩した。彼女はそのまま機外へ搬送されたものの、死亡が確認された。

   また、同日にホンディウス号内でも体調を崩した乗客が下船し、さらに5月2日には船内でひとりの女性が死亡した。

   事態を受け、WHOは船内の患者たちがハンタウイルスに感染していたことを確認したという。

「新型コロナウイルス感染症の再来ではない」

   5月4日、WHOは「一般市民の間で感染が拡大するリスクは低い」と指摘。6日には、アフリカ西海岸沖のカボベルデ諸島付近に停泊しているホンディウス号内の人々について、スペインの自治州であるカナリア諸島で下船させる対応を計画した。

   スペイン政府はこの計画に同意を示したものの、カナリア諸島の自治州首相は懸念を示した。しかし、WHOはカナリア諸島が「必要な設備を備えた最寄りの場所」であり、船内にスペイン人もいることから、「支援する道義的および法的義務がある」とした。

   これに加え、WHOのテドロス・アダノム事務局長は島の住民に対し、

「新型コロナウイルス感染症の再来ではない」

と強く訴えた。

   結果として、10日になってホンディウス号はカナリア諸島のテネリフェ島に到着した。

   WHOによると、2026年5月15日現在で10人に感染が確認、または感染が疑われており、うち3人が死亡している。また16日になって、カナダ・ブリティッシュコロンビア州当局が、ホンディウス号から下船後に帰国、隔離中の1人が「アンデス株」陽性を示したと明らかにしたことが報じられている。

「ヒトヒト感染の明確な証拠ない」で各国の水際対策に遅れ

   テドロス事務局長は「アンデス型の潜伏期間は最大6週間であるため、さらに多くの症例が報告される可能性がある」としたものの、一貫して「一般市民に感染が拡大するリスクは依然として低い」と述べている。

   しかし、こうしたWHOの対応に疑念の声があがっているのはなぜか。

   それは、テドロス事務局長がカナリア諸島の住民に発した言葉が、新型コロナウイルス感染症に対するWHOの初期対応の記憶を呼び起こしたからだろう。

   2020年、現在と同じテドロス氏が事務局長を務めていたWHOは、新型コロナウイルス感染症が流行した初期に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の発令やパンデミックの認定が遅れてしまった。

   加えて、WHOが「ヒトからヒトへの感染の明確な証拠はない」と発信したこともあり、各国の水際対策に遅れが生じた。

   この初動の遅れが、世界的な感染爆発の一因として指摘されている。

   これはWHOの独立委員会「パンデミック予防・対策・対応独立パネル(IPPPR)」による報告書「COVID-19:新型コロナを最後のパンデミックに」でも明記されている事実である。

   もちろん、過度なパニックや根拠のない批判は慎むべきだ。

   未知の変異株に対して、初期段階で完璧な舵取りを行うことはどの組織にとっても至難の業だからである。

   ただ、WHOに注がれている厳しい視線は、世界の人々が持つ「二度とパンデミックを繰り返したくない」という思いの現れであることは間違いない。

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