海の森水上競技場がローイングにとって特別な場所に
水上スポーツのもう1つの施設に、江東区の「海の森水上競技場」がある。東京2020大会では、ローイング競技とカヌー競技が行われた。ローイング競技とはかつてのボート競技で、競技団体名、競技名ともに2023年に名称変更された。
取材当日も第104回全日本ローイング選手権大会が海の森水上競技場で行われていた。東京2020大会終了後もこのような全日本クラスの大規模な競技大会が毎年実施されており、来年9月には「パラカヌー・ワールドカップ」が開催されることが決まっている。
日本ローイング協会の業務執行理事・細淵雅邦さん
公益社団法人日本ローイング協会の業務執行理事・細淵雅邦(ほそぶち・まさくに)さんに、海の森水上競技場が整備されたインパクトを聞いた。
「日本で国際大会が開催できる会場は少なかったのです。海の森水上競技場という世界レベルの競技場ができたことは、大会をするにしても練習するにしても、選手はモチベーションが上がります。海の森水上競技場は2024年にナショナルトレーニングセンターに指定されました。陸上やサッカーにとっての国立競技場、ラグビーならば花園ラグビー場、高校野球にとっての甲子園球場......というように、ここはローイングにとっての聖地であるといえます」
パラカヌー選手の瀬立モニカ選手(パリパラリンピック[女子KL1]6位入賞)
パラカヌー競技の瀬立モニカ(せりゅう・モニカ)選手(パリパラリンピック[女子KL1]6位入賞)によれば、「海外のカヌー競技場は、都市から離れた場所が多いのですが、海の森は世界の競技場の中でも、最も都市に近く、多くのファンが見に来やすく、そしてバリアフリーも進んでいます。カヌー界を盛り上げるには素晴らしい会場です」という。
現在、ローイング選手の登録者数は約1万人だが、細淵さんはデジタル技術を活用したアプローチでスポーツ参画人口をさらに拡大したいと考えている。注目しているのが、リアルな運動とデジタル空間を融合させた「コネクテッド・ローイング」――いわゆるバーチャルスポーツだ。
これは、ローイングマシンというトレーニング機器にセンサーや通信技術を掛け合わせ、オンライン上で世界中の漕ぎ手とリアルタイムに競い合う仕組みだ。「リアルとデジタルのハイブリッドによる新たなスポーツ価値の創出」として急速に世界へ浸透しており、場所や年齢を問わずに誰もがアクセスできる次世代のローイングとしてその普及に注力している。
細淵さんが海の森水上競技場のプレゼンスを高めると期待しているのが、ボランティアの存在だ。東京2020大会のローイング競技でボランティアとして参加してくれた人たちがいまもつながっている。1回限りの関係ではなく、次の大会にも自発的に戻ってきてくれる絆があるという。
「私たちが目指しているのは、ボランティアのみなさんも『大会の主人公』であるという大会づくりです。その絆を東京大会のレガシー(遺産)として、当時のスタッフや役員、さらには東京マラソン、ラグビーW杯など多方面のボランティアのみなさんが再び集う『リユニオン(再集合の場所)』として毎年開催しています。われわれも毎年、ボランティアのみなさんにボートを漕ぐ体験を『2020記念レガッタ』という形で用意しており、和気あいあいとその魅力を体感してもらっています。するとみなさんが今度は、最高の発信者となって、新たなローイングファンを海の森へ連れてきてくれるんですよ」