イヤホンの歴史 5(最終回) カスタムIEMの普及と最新イヤホンのトレンド

Bluetooth技術向上によるワイヤレスイヤホンの流行

    一方、イヤホンやヘッドホンのトレンド全体を見渡してみると、ここ数年で大きな進歩を遂げた製品群があります。それは、Bluetoothによるワイヤレスイヤホンです。
    Bluetoothは以前から、スマートフォンやパソコンなどの機器には標準的に採用されていて、ヘッドセット(ヘッドホンとマイクが一体化したもの)やマウス、キーボードなどのワイヤレス接続に活用されていました。しかし、2016年、iPhoneからヘッドホン出力端子が廃止されたことをきっかけに、音楽鑑賞用のイヤホンもワイヤレス化の波が本格化。スマートフォンとケーブル接続しなくて済む扱い易さ、手軽さから、Bluetoothワイヤレスイヤホンは、あっという間に普及することとなりました。

2016年にAppleから登場した「AirPods」は、フルワイヤレスイヤホンが広がるきっかけとなった。写真は第2世代機。
2016年にAppleから登場した「AirPods」は、フルワイヤレスイヤホンが広がるきっかけとなった。写真は第2世代機。

    以前は、Bluetoothは音楽鑑賞用としては"音の悪さ"が問題となっていました。Bluetoothは規格上、伝送できるデータ量が少ないため、ハイレゾはもちろん、CDよりもはるかに劣る音質となってしまう弱点がありました。また、低出力のワイヤレス接続ゆえに、音楽再生中に音切れが発生してしまうことも深刻な問題でした。
    それを解決してくれたのが、高音質コーデック(音声伝送方式)の登場です。クアルコムのaptXやaptX HD、ソニーのLDACなど、ハイレゾ音源にも対応し(体感的には)CD同等かそれ以上の音質をBluetoothワイヤレス製品でも楽しめるようになりました。また、もうひとつの問題である音が途切れることに関しては、接続安定性の高い最新Bluetoothチップや新アンテナの開発などによって、ここ1年で大きな改善が押し進められました。  このように、音楽鑑賞の用途に合ったBluetoothワイヤレス製品が登場してきたこともあって、イヤホンは有線から無線の時代に移り変わろうとしています。その代表格といっていいのが、プレーヤーとはもちろん、左右のイヤホン本体を繋ぐケーブルもない"フルワイヤレスイヤホン"です。完全ワイヤレス、トゥルーワイヤレス、とも呼ばれています。

    ケーブルが全く付属しないことによる、ストレスフリーな使い勝手の良さが好評を博し、このフルワイヤレスイヤホンは現在、急激に普及をし始めています。とはいえ、ケーブルレス故の問題点もあります。それは、装着感がとてもシビアで落下しやすいことです。その解決方法として、実は、IEMのノウハウが活かされていたりします。SHUREなどのユニバーサルIEM系のデザインを採用し、さらにスポーツタイプなどに用いられることの多いイヤーフィンなどで補助することで、使用中に耳からポロリとこぼれ落ちることがない、確実な装着感を実現した製品が増えてきています。

2019年発売のAVIOTのフルワイヤレスイヤホン「TE-D01d」。途切れにくさや音質の良さ、装着感を高めて外れにくくするイヤーウイングが好評を博して、人気商品となった。
2019年発売のAVIOTのフルワイヤレスイヤホン「TE-D01d」。途切れにくさや音質の良さ、装着感を高めて外れにくくするイヤーウイングなどが好評を博している。
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