音とデザイン 第4回 現代アートから「世界の見方」を学ぶ
コンセプター坂井直樹さん×Sumally代表 山本憲資さん

「世界を透明に見たい」――その真意は?

坂井:次に、山本さんの経営者としてのスタンスを聞かせてください。起業して事業をデザインする――つまり、設計していくのが、ベンチャー企業やスタートアップ企業の経営者として醍醐味でしょう。そのためには、誰もが使いやすくて楽しいサービスや商品を打ち出していく、クリエイティブな面が求められると思います。ビジネスだって、ある種の表現ですから。そのあたりは、どんなふうに意識していますか?

山本:僕は、クリエーターというより、プラットフォーマーに興味があるのだと思うんですよね。クリエイティブなアウトプット以上に、ぐるぐる回る仕組みをつくり上げ続けたい、と考えています。世の中をもっと便利にして、人々をわくわくさせるようなエコシステムを生み出せたらいいですね。

坂井:ビジネスパーソンとして志を持つ山本さんは、一方で自身が好きな現代アートや音楽、カルチャーについてとても詳しい。国内外で開催される現代アートの展覧会や音楽のコンサートにも、頻繁に足を運んでいるそうですね。芸術に日々触れることは、会社経営に影響するものでしょうか?

山本:単純に自分が好きだということがまずありますけれど、確実につながっていることだと思います。僕は、見たり聴いたり、体験したりするインプットを積み重ねて、対象への理解を深めることで、「世の中がどんなふうにできているか知りたい」という強い欲求があります。最近では『鬼滅の刃』よろしく、「世界を透明に捉えたい」とか表現したりもするんですけれど。

坂井:どういうことですか?

山本:世界の構造を、ある意味、筋肉の筋の動きレベルの解像度で理解したい、ということですね。たとえば、僕が現代アートを追い続けているのは、作者の思考を理解したい、と考えているからです。アーティストたちの作品は、「この世界(世の中)をどう見るか」について、プレゼンテーションしたものだと感じます。作品とは、作者が見る一般的にはインビジブルな世界――内面世界を、受け手である僕らに向けて可視化したもの、といえるのではないでしょうか。そういったアーティストの視点を多点的につなげて世界を理解しようすることは、社会の構造を多面的に理解することにつながるのではないか、と。

坂井:そのために、多くのアーティストのたくさんの作品を見続けるわけですね。

山本:「世界はこんなふうにも捉えられるんだ」という新しい発見があって、いつもわくわくします。そして、さまざまな物事への理解を深めることで、世の中の本質にもっと迫っていけるのではないか、と思っていて。アートだけに限りません。僕はクラシック音楽も好きですが、指揮者や演奏者の意図を"高解像度"で正確につかめるようになれば、また一歩世界の理解に近づいていく。それは、ユーザーやパートナーとなる企業を巻き込んでいくプラットフォームのビジネスに携わるには、必要な視点だと考えています。

「アートはどちらかといえば見ることが好きですが、昨年は人生で初めて3枚のペインティングを買いました。購入した油彩の作家は今井麗さん、川内理香子さん、山口幸士さん。3人とも僕より年下だったり同世代です」と山本さん(写真中央は今井さん)。
「アートはどちらかといえば見ることが好きですが、昨年は人生で初めて3枚のペインティングを買いました。購入した油彩の作家は今井麗さん、川内理香子さん、山口幸士さん。3人とも僕より年下だったり同世代です」と山本さん(写真中央は今井さん)

坂井:世界を透明に見る――つまり、物事の本質や原理原則を理解して、偏りのない視点から真実を見極める、ということでしょうか。それはきっと、度重なる判断を迫られる経営者として大切なことでしょうね。

山本:そうですね。プリンシプル、原理原則の理解だと思います。この先、さらに大きな仕事を成し遂げ続けるには、資本主義のルールで戦い抜くことに加えて、社会全体がどうあるべきなのかといったビジョンに対しても、しっかりとパーソナルなグリップを効かせていかないと、足元をすくわれる事態を招いてしまうかもしれません。仕事で最高のパフォーマンスを発揮するうえでも、また自分としてのバランスを保つためにも、「世界を透明に捉える」ためのインプットはこれからも続けていきたいことです。ちなみに、インプットして理解したことを、文章にしてアウトプットすると、より深い理解が得られるものです。ときおり、好きなトピックをメディアに寄稿しているのは、そんなねらいもあります。まあ、書くのが好きだということもありますけれど(笑)。

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