音とデザイン 第4回 現代アートから「世界の見方」を学ぶ
コンセプター坂井直樹さん×Sumally代表 山本憲資さん

ベートーヴェンへの熱狂

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坂井:ところで、山本さんは昨年8月、生活拠点を都内から長野・軽井沢に移されたそうですね。古い家を購入して改装したとうかがいました。軽井沢ではふだん、どんな環境で音楽を聴いているんですか?

山本:Bang & Olufsen(バング&オルフセン)の高さ2mくらいあるトールスピーカーを2本設置しています。「Beolab1」というモデルを、中古で安く手に入れました。最近よくある小さなスピーカーよりも、トールスピーカーで重低音からしっかり聴きたかったので。Bluesound(ブルーサウンド)というカナダのオーディオメーカーから出ているネットワークプレーヤー「NODE 2i」と合わせて使っています(※詳しくは「山本さんのお気に入りガジェットを公開!」もぜひご覧ください)。

現在、山本さんの拠点となっている小屋
現在、山本さんの拠点となっている小屋

坂井:ちなみに、ソニーのカスタムイヤホン「Just ear」も使っているんですよね?

山本:はい、昨年から使っています。自分の耳にフィットするのが心地よく、UX(ユーザーエクスペリエンス)がすばらしい。デザインされていないデザインのよさがあって、プロダクトとしても好きです。作り手のこだわりが伝わってきます。それと、クラシック音楽を聴くのにぴったりです。「Just ear」を使うと、楽器ごとに聴こえる位置が違って、空間の広がりを感じます。ちょっと庭に出て聴くと、最高に気持ちいいです。すごく澄んだ音で楽しめるんですよ。

坂井:山本さんはクラシック音楽がお好きなんですね。どんなところに惹かれますか?

山本:歴史に名を残す作曲家たちがつくった楽曲がすばらしいことはもちろん、そこからの数百年間、世界中の音楽的な才能に恵まれた人たちがその楽曲を解釈して指揮や演奏に挑み、人生を捧げていますよね。コンテンツにかかってる圧が違うというか、才能ある人たちが偉大な作曲家たちに挑み続けることで、クラシック音楽はさらに深みを増し、それでも輝きを増して続けていく強さを持っているのだと――いわゆる時代的なポップスとは別物で、そんなところに強く惹かれます。コンサートで演奏を聴いて、そういった深みが少しでも理解できた気になると、本当に楽しくなります。モチベーションも上がります。自分も適当な仕事をやっていられないな、と。

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坂井:好きな作曲家はいますか?

山本:ベートーヴェンです。ベートーヴェンの楽曲は、いわば当時のロックで、たとえば交響曲に合唱を入れるといった斬新なことをしています。合唱幻想曲や第九も好きですね。飽きることがありません。何度聴いても心を揺さぶられます。5年ほど前には、ドイツ・ベルリンに行って、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が1週間かけて、交響曲第1番から9番までを演奏する「ベートーヴェン・チクルス」を聴きました。30代のうちに、最高峰のオーケストラでベートーヴェンの交響曲を通しで聴いてみたい、という夢がかないました。

坂井:ベートーヴェンは昨年、ちょうど生誕250周年でした。

山本:いろいろ予定されていたイベントが中止になってしまって残念でした。以前、毎年12月に行われる「1万人の第九」に参加したこともあります。6月ごろに申し込んで、8月からは毎週練習して、本番に臨むんです。ドイツ語で暗譜しなければ歌わせてもらえないんですよ。おかげで僕は、いまでも第九はそらで歌えます。「1万人の第九」を指揮する佐渡裕さんが「ベートーヴェンにもぜひ聴かせたい」とおっしゃっていたのは印象的でした。――極東の島国のドイツ語もわからない人たちが必死に第九を覚えて、みんなで歌って、涙している。ベートーヴェンも腰を抜かすだろうな、と。確かに僕もそうだと思います。機会があれば、また行きたいですね。

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