2024年 4月 20日 (土)

JALがなかなか潰れないのには理由がある

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   JALが、いよいよ整理解雇を決定した。公的支援で再建を図っている最中なのだから、速やかに余剰人員は解雇すべきだろう。むしろ決定が遅すぎるくらいだ。

   ところで、今回の一連の経緯からは、ふたつの事実が見えてくる。ひとつは、一企業におけるたった250人の解雇がニュースになるほどに、日本は終身雇用という建前が崩れていないということ。少なくとも名の知れた企業なら、これほどの手間とコストをかけないと人なんて切れないということだ。

   そしてふたつめは、「雇用を守るべき」という労組のべき論は、現実の前にはあまりにも無力だということ。労組側はまだ司法に訴えるとかなんとか言っているが、裁判官がどう思おうと、ないものはないのであって、時間の無駄である。

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マンモス企業が国の社会保障を肩代わり

   といっても、あんまり可哀そうというわけでもない。

   パイロットであれば50歳で年収2000万円前後、退職金は平時で1億円近くあるはず。恐らくそこに、さらに割増退職金が上乗せされるだろう。

   はっきりいって、そこらの中小企業の社長さんなんかより、よっぽど金持ちである。住宅ローンがあったって一発返済できるはずだ。

   ところで、日本においてはなぜJALやダイエーのような大手は救われるのか。それは、日本の社会保障制度は、就職あっせんや生活水準の保証など、事実上かなりの部分を終身雇用として企業に丸投げしているためだ。

   そのため、従業員数が数万人もいるようなマンモス企業がどかどか倒産されると、国としてもとても困ったことになってしまう。

   つまり、JALを救済しているというより、そこの従業員の再就職の世話とか失業給付とか、その他もろもろの諸手続きを金出してアウトソーシングしているようなものなのだ。

   ちなみに、ここまでドラスティックに金を出してあげるケースこそ多くないものの、基本的に同じ発想から、エコカー減税や公共事業など、不況のたびに様々なバラマキを実施することになる。

   国の借金が900兆円にまで積み上がってしまった背景には、潰すに潰せなかったという側面があるのだ。

弱者から強者への「逆再配分」が起きている

   ところで、読者の中には「社会保障を国がやろうが企業がやろうが、どっちでもいいじゃないか」と思う人がいるかもしれない。確かに、一見すると「官から民へ」の流れに沿っているようにも見える。

   ただ、この“民営社会保障”には致命的な欠陥が3つある。


(1)格差を助長する

   JALのように、大手は割増退職金すら保証される一方で、中小零細は会社、従業員共に見殺しにされる。給与未払いなんてことも珍しくないし、この手の会社の社長さんはたいてい家を担保にしているので、文字通りすってんてんになる。

   30年以上生きているという人なら、自殺したり夜逃げした中小企業オーナーを一人くらいは知っているだろう。

   言うまでもないが、大手を延命させるための費用は、そういう中小企業の人間も含めた国民みんなで負担することになる。まさに「弱者から強者への逆再分配」だ。


(2)良い人材だけをつまみ食いする

   当たり前の話だが、企業は“弱者”になる可能性のある人間を最初から採らない。能力的に劣る人間、持病のある人間は採用段階で弾かれ、民営社会保障の輪には入れてもらえないことになる。


(3)経済が成長しない

   こういう構図を優秀な学生は感覚的に理解しているから、彼らは小さな会社より大手企業の求人に集中する。そしてその多くは、自身の能力を現状維持のために用いるようになる。

   JALに最後までしがみついた中高年が、かつては日本最高水準の人材だったという事実をおぼえている人は何人いるだろうか。

社会保障を再構築し解雇規制を緩和せよ

   能力的には申し分なかった人たちを沈みゆく船にしがみつかせたのは、

「最後は国がなんとかしてくれる」

という寄らば大樹の意識である。そして、彼らの予想通りに事は運んだ。

   確かにJALは潰れ、しがみついた人達のごく一部は整理解雇になったが、彼らは十分すぎる補償を定年後まで受け続けるだろう。

   だが、後には何も残らない。最優秀な人間が逃げ切ることだけに集中していては、新しい会社も製品もサービスも生まれず、いつまでも日本は停滞し続けてしまう。

   よく言われるように、日本は再分配後に、逆に格差が拡大する珍しい国だ。その理由は、上記のように、終身雇用という建前にしがみつき、そこから漏れた人間に見て見ぬふりをしているためだ。

   日本型雇用の二階部分に入れてもらえなかった人間は、その後の社会保障の分配も十分には受けられず、負担だけが重くのしかかることになる。

   抜本的な解決には、すべての社会保障を企業から切り離し、再構築するしかない。企業負担を減らしつつ新規雇用コストも引き下げることのできる解雇規制の緩和は、その本丸である。

   残念ながら、バラマキと労組が大好きで、自民でさえやらなかった派遣再規制までやろうとしている民主党は、上記の構造を1%も理解してはいないはずだ。

   持てるもの持たざるもの双方にとって、これほどご利益のない政党も珍しい。「政治家も終身雇用に!」などと言い出す前に、彼らには潔く身を退いていただきたい。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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