「そんな時間はない」 社内研修に出席しない社員

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   現場での仕事が分かってくると、「自分が一番働いている」「上司はまるで分かっていない」という錯覚に陥りがち。つい周囲のアドバイスに耳を傾けなくなってしまう。ある会社では、社内研修を受講するよう上司に声をかけられたのに、「そんな時間はない」と答えてしまった若手社員がいるという。

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「考えを正せ」と人事部長が大激怒

――システム開発会社の人事です。当社は社員教育に力を入れており、技術やマネジメントをテーマに、毎月のように社内外の講師による研修を実施しています。
   参加は強制ではなく任意ではありますが、社員はひとりあたり平均年間3~4本の研修メニューを受講しており、当社の人材育成策の特徴となっています。
   しかし、中には困った社員もいます。今年から主任に昇格した20代後半のA君は、今年の研修にまだ一度も参加していないというのです。上司の開発部長は、

「将来課長になるに当たって、マネジメントの基礎講習くらいは受けておいた方がいいよと、私からも言ったんですがね」
と困り顔。しかしA君は、現在進行中のプロジェクトを2つ抱えているので、「とてもそんな時間はないから、自分で勉強しておく」と断ったのだそうです。
   この話を耳にした人事部長は、「そんな時間とは何だ」と大激怒。
「会社は社員のためを思ってやっているのに、けしからん!だいたい彼は、自分の実績ばかり考えて、会社や組織のことを考えようとしない。そんな考えを正さないまま主任に昇格させたらダメだと、オレは反対したんだ」
と逆鱗に触れてしまったようです。
   確かに他の参加者も、それぞれ多忙な中、時間を割いて出てきています。部長の言うとおり、A君は業績を上げてはいるが、独善的なところもあるので、将来の管理職候補として資質を疑う声が出ていたのは確かです。このような社員に対して、会社はどんな手を打てるのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
どうしても参加させたければ出席を指示する

   任意の研修であれば、会社はA君に参加を強制できないのは当然です。もし彼に視野を広げてもらうために是非とも出席が必要ということでしたら、彼に対してのみ業務命令として参加を指示することも考えられます。その場合は、研修の受講は時間外勤務となりますが、他の社員との整合性が取れないと問題になるかもしれません。研修を自主的に受ける風土を大事にしたい気持ちも分かりますが、結局、「どうしても必要な研修は、業務時間内に実施すべき」という結論になるでしょう。

   業務命令に従わずに参加しない場合には、何らかの懲戒処分も可能です。参加を促すために、人事考課の評価項目に「研修の参加状況」や「研修での成績」などを入れている会社もあります。「研修で学んだ内容を業務にどう活かしたか」というレポートを提出させるのも手です。

   なお、業務時間に実施するときには、人事は業務の繁忙状況を把握し、研修メニューを厳選して、通常業務に著しい影響を与えないよう配慮すべきです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「研修の参加強要」にならないよう注意

   任意の研修である限り、それを受けなかったことを理由に、A君が人事考課で減点されることがないよう、A君の上司に伝えておくべきです。そのようなことが起これば、A君のモチベーションは非常に下がり、「角を矯めて牛を殺す」ことになります。できる社員は、ときには「やり過ごし」をするものですが、会社としては「緊急度は低くとも、重要度は高い仕事もある」と、研修の意義を説明して納得してもらう努力も必要です。

   なお、精神障害等に係る「労災認定判断基準」が昨年改定された際に、「研修・会議等の参加を強要させられた」という項目が追加されました。自分の業務やスキルと無関係の研修などに、無理やり参加させられて強いストレスを受けて病気になった場合には、労災認定の評定項目の一つになりうるというものです。今回のケースにそのまま当てはまるものではありませんが、そんな流れもあることを知っておいてもいいでしょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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