2024年 4月 24日 (水)

賃金が上がらないのは「下げられないから」

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   トヨタ労組が、ベア要求を見送った。人も設備も、過去の過剰投資のツケを抱えたままなので、これ自体は当たり前の話だが、この流れは多くの大手企業に影響するだろう。

   ところで、2000年代に入ってからの数年間は(大手中心とはいえ)好況が続いたにもかかわらず、サラリーマンの賃金は下がり続けている。なぜ日本人の賃金が上がらないのだろうか?

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終身雇用が日本人の賃金を抑えている

   昔調子に乗って賃上げしすぎたとか、人採りすぎたとか、企業によっていろいろな事情があるとは思うが、日本人の賃金が上がりにくい最大の理由は「終身雇用だから」である。

   ご存じのように、日本ではいったん賃上げしてしまうとなかなか下げられないし、クビも切れない。

   とすると、十年後の業績がどうなっているかを予想して、もっとも低い予想でもペイできるくらいにしか上げられない。

   なぜって? 「生涯雇え。賃下げもするな」というのは、裏を返せばそういうことだから。

   誰でも、将来の収入を予想してマイホームや車のローンを組むだろう。それで、あまり収入が増えないだろうなと予測すれば、そんなに多額のローンは組まないはずである。あれと同じことを会社もやっているわけだ。

   経済全体がのぼり調子の時、誰でも賃金が上がっていくわけだから、これは万人向けの好システムだ。

   ただ、今の日本のように、経済状況から人口構成、年金、財政等で課題山積み、というかほとんどお先真っ暗な場合は、普通に働いてサラリーも貰っている普通の労働者にとっては、強力な昇給ブレーキがかかってしまう。

   東大や京大、早慶といった上位校で、年俸制の外資や新興企業人気が高まっているのも、突き詰めれば同じ理由だ。

企業には「業績向上」に専念してもらおう

   ちなみに、10年卒の東大生就職人気企業ランキング(文理総合)で、トップ10にメーカーは1社も入らない一方、外資金融、コンサルは3社エントリーしていた(週刊東洋経済・調査)。

   日本企業がルールを変えない限り、納税者が一定のコストを負担して教育した国産エリートは、外資に流れ続けるだろう。

   さらにいえば、我々はもっと恐ろしいコストを負担しているかもしれない。

   もし、過半数の企業が「将来に対する悲観的な予想」をして、それに見合った賃金に今から抑えようと努力すれば――。

   本当は未来なんて努力次第で変えられるはずなのに、恐らくその予想は予想でなく、現実になるだろう。

   ただ、処方箋についてははっきりしている。「従業員の生活の安定」については国が引き継ぎ、企業には「自社の将来の業績を引き上げること」にのみ専念させればいい。

   みんなの将来の予想を変えるのは難しいが、もっと大胆に今を振る舞えるように制度変更するのは、そんなに難しいことではないはずだ。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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