停電で鉄道が運休 「休んだら懲戒」はありうるのか

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   計画停電が行われていた間、利用する路線によっては毎日の通勤もままならないという人がいたのではないか。この夏の節電がうまく行かなければ、また停電してしまうおそれもある。

   ある会社では停電中にもかかわらず、上司に「何としてでも出てこい」と言われて出社した中堅社員が、交通費の扱いや上司の物言いに対して不満を募らせている。

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「タクシー代も出せない」と冷たい対応

――都内商社の企画部門に勤務する30歳の男性会社員です。このたびの震災で大きな影響を受けた鉄道路線で通勤しています。
   震災直後から運休が続き、そのたびに上司に「今日は会社に行けない」「今日は午後から出勤」などと連絡を入れていました。上司はしばらく仕方ないなという態度でいましたが、ついに先日、

「お前、いい加減にしろ!今日は何としてでも出てこいよ」
と電話口で怒鳴り始めました。
   驚いてタクシーを捕まえて、数千円かけて別の鉄道の駅に行き、通常の2倍の時間をかけて出勤しました。
   しかし、翌日以降も運休か遅延運行は必至だったので、「自宅勤務を認めてくれませんか?さもなければタクシー代は会社で出してください」と上司に頼んだところ、
「迂回して来ているヤツは、みんな自腹でやっているんだ。お前だけにカネを出せるか。明日出てこなかったら懲戒処分にするからな」
と言い放たれてしまいました。
   確かに「みんな」と言われると耳が痛いのですが、居住の自由もありますし、これを繰り返していてはタクシー代が嵩み家計も耐えられません。上司が懲戒をちらつかせているのもムカつきます。どうしたらいいでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
不可抗力なら欠勤にもマイナス査定にもできない

   停電のような不可抗力で通常の通勤ルートが使えず、代替手段も確保できないときは、出勤する義務はなくなると言えるでしょう。「タクシー使え」「歩いて来い」と言われれば、どこからでも来られることになってしまうので、代替手段の有無は「公共交通機関が使えるかどうか」などを目安としつつ、個別に判断することになります。

   出勤できない場合、会社の給与支払い義務はなくなりますが、懲戒処分にしたりマイナス査定にするような不利益措置もできません。就業規則で「不可抗力による欠勤では給与カットしない」旨を定めている場合には、給与を支払う必要があります。

   なお、タクシーを使って出勤した日の交通費は、雇用契約などで交通費を「実費支給」「支給しない」などしている規定に従うことになります。しかし上司の命令で無理をして出勤したのですから、規定の有無にかかわらず、余分にかかった部分は会社が負担してあげてもよいのではないでしょうか。

臨床心理士・尾崎健一の視点
仕事のやり方を見直すチャンスにしては

   東京電力は「計画停電は当面実施しない」としていますが、盛夏にかけて鉄道の間引き運転の継続も考えた方がよいと思います。計画停電や大規模停電によって、通常の仕事のやり方ができずに事業がストップしてしまうかもしれません。万一の際に迅速に合理的な判断をするために、職場であらかじめ一定のルールを定めておきましょう。

   今回の相談で「自宅勤務」の申し出をしていますが、それを行うための環境を事前に整備し、コミュニケーションのルールさえ決めておけば、問題なく自宅で仕事を行うことができる職種も多いのではないでしょうか。業務の生産性を上げるために普段から使えるツールもあり、仕事のやり方を大きく見直すチャンスかも知れません。

   必要性が薄いのに「這ってでも出て来い」式の上司では、モチベーションも下がります。仕事の見直しに成功すれば、社員の健康と安全を確保でき、生産性も上がって一石二鳥です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
  • 発売元: 小学館集英社プロダクション
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2011/06/30
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