まだ4月だというのに、オフィスの気温が上昇し、夏が思いやられるという人も多いだろう。ソニーが2週間の夏休みを設けるそうだが、そこまでできる会社はほとんどない。それなら夏の間だけ、オフィスごと避暑地に引っ越してしまったら――。北海道の倶知安(くっちゃん)観光協会では、ニセコ地域のコンドミニアムを臨時オフィスとして使えるようにし、首都圏のIT企業などに売り込みを掛けているという。観光協会ら工夫「光熱費込みで月15万円から」8月の平均気温は20.5度(倶知安観光協会提供)倶知安町は、JRで札幌から150分、小樽から90分の場所にある。冬は国内有数のスキー場として有名だが、最近では夏のリゾート地としても国内外から観光客を集めている。「ひらふ地区」には、2LDKから4LDKのコンドミニアムが240棟あまり。マンションタイプと戸建てのコテージタイプがあり、これまでもサマーキャンプや合宿といった団体での利用などを呼びかけてきた。そこに飛び込んできたのが、首都圏の電力不足の話題。観光協会はコンドミニアムの管理会社やレンタカー会社などとともに、「夏のオフィス」としての使い勝手を上げるための工夫に取り組んでいる。企業側にとっても、一般的なオフィスビルと異なり敷金・礼金が不要なことや、最大200平方メートルのスペースはメリットになる。賃貸料は、光熱費込みで1棟あたり月15万円から30万円程度。全室に光ファイバー網や冷蔵庫、テレビなどが備え付けられている。契約期間は原則1か月単位、法人でも個人でもOKだ。利用者は椅子や机、レンタカーなども格安で借りられる。この企画には、ツイッターなどで「これは使える」「魅力的だ」と評価する声が上がっている。「夏場は気持ちよくていいとこだよ」「今こそ夏の北海道の価値を見直す時」電力不足を回避して、大阪など関西地方に一部機能を移転する会社もあるが、気候のよさなどから「どうせ疎開するなら関西より北海道」という意見もある。経験者「遊びたくなって仕事にならない」1980年代後半には、首都圏郊外に大手企業の「サテライスオフィス」を置く試みがあったが、バブル崩壊とともに立ち消えになった。都心まで通勤電車に乗らなくてよいメリットはあったものの、都市型オフィスには変わりがない。その点、倶知安町は梅雨もなく、8月の平均気温が20.5度と過ごしやすい。東京から移住した人たちは、夏の間もほとんどエアコンを使わずに暮らすという。そんなに快適な場所だったら「会社ごと単身赴任か」「いっそのこと家族同伴にしては」といった意見も。観光協会は、「4LDKの物件なら、人数によっては仕事と生活のスペースを分けて使えますし、希望者にはさらに広い一戸建て物件を紹介することもできます。家族連れでの利用もありうるのでは」と強力にアピールする。域内のニセコ連山は山歩きやサイクリングに適していて、温泉も20個所以上。新鮮な農作物も豊富だ。利用したことのある人からは、「一度会議で試したことありますが、遊びたくなって仕事になりませんよ」と、その魅力を「警告」する。観光協会には、すでに十数件の問い合わせが来ているというが、新しい夏の働き方の成功例となるかどうか。
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