「お金を返せない人って、どんな人なんですか?」債権回収のお仕事をしていると、こんなことを聞かれることがあります。私はいつもこの質問の返答には困ってしまいます。なぜなら延滞される方というのは本当に千差万別で、特徴は一様に言い表し難いからです。「この人は信頼できそうだ!」と思って支払日を設定しても、初回の返済から連絡が取れなくなってしまったり、「この人大丈夫かな」と不安に思っていると、予想外にいきなりお金を稼いで全額返済してきたり…。そういえば電話口でうるさかったような犬には何回も襲われたからねー…(イラスト:N本)もちろん一般的に公務員などのお堅い職業では融資が通りやすいが、どんなに稼いでいてもなかなか通りにくい職業があるなど、審査の基準として設けられている項目はいくつかあります。でも、職業だけでは「この人は延滞しない」とは確実に言えず、その見極めができるようになるには、それ相応の時間と経験が必要になります。「あ、いまエヌモトちゃんが話してた人、たぶん長期延滞するよ。不履行(入金の約束を破ること)したら、すぐ連絡とったほうがいいよ」まだ督促の仕事を始めて日が浅かったころ、私の横で電話を聴いていた先輩がボソリと言いました。彼女は債権回収歴20年超のベテランです。え、今の交渉のどこがダメだったんだろう。私「何日に入金いただけますか?」、客「○月×日に支払います」、私「金額は××円になります。よろしくお願いいたします」。怪しいところなんて、どこもなかったはずなのに。でもそのお客さまは、その後本当に支払いの約束を破り、しばらく音信不通になってしまったのです。やっと連絡が取れた時には、手元にまったく資金がない状態でした。「やっぱり長期延滞です。どうしてわかったんですか!?」。私は息せき切って先輩のところに駆け寄りました。先輩はなんの事もないかのように、「犬が吠えてたから」とひとこと言いました。い、犬ですか。そういえば電話の向こうで、お客さまの声が聞きづらいくらい、犬がうるさく吠えていたような…。凶暴な犬は「足を踏め!」「犬が吠えてると、延滞するんですか?」「そう、しつけのできてない犬が飼われてるのは、お金が返せない人の家なのよ」そんなことあるのかな…。いぶかしがる私に、先輩はお客さまの所へ回収に行った時のエピソードを話してくれました。先輩が債権回収の仕事を始めた20年ほど前に、上司と一緒にお客さまの家に回収に行った時のこと。そのころはまだ、お客さまの家を直接訪ねる「訪問回収」が行われていたのです。門を開けたとたんに、鎖につながれていない大型犬が数匹、飛びかかってきたそうです。びっくりしてパニックになった次の瞬間、上司が叫びました。「足を踏め!」二人は冷静に(?)飛びかかってくる大型犬の足を踏み、障壁をかいくぐって無事にお客さまの待つ母屋まで辿り着いたそうです。「凶暴な犬は足を踏むんですか!」「うん。このテクニックはその後、かなり役に立ったよ」。犬には何回も襲われたからねーと、先輩は苦笑しました。結局、犬のしつけと延滞の関係は、「数多くの経験上」というだけで、はっきりとした答えを聞けませんでした。もしかすると、借り手や飼い主としてのルーズさが共通の原因なのかもしれませんが。今、督促のほとんどは電話で行われ、私もずっとコールセンターに勤務しているので、直接入金に来るお客さまの顔さえ見たことがありません。だから、こういった経験をされてきた先輩方には、かなわないなぁと思うことが多々あります。長年債権回収をしてきた先輩方は口をそろえて言います。「延滞者には匂いがある」と。匂いってどんな!?と思わずつっこみを入れてしまいますが、早く自分もその匂いをかぎわけられるようになりたいと思っています。N本(えぬもと)>>債権回収OLのトホホな日常・記事一覧
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