それははじめ、それほど大きなクレームではありませんでした。「お前、いい加減にしろ!謝ればいいと思ってんだろ!!」「えぇ!?」けれど、お客さまは電話の途中でいきなり大爆発。このクレームは、その後何度もお詫びの電話をかけなければならない大クレームに発展してしまいました。その元となったのは、私の「謝罪」の仕方でした。「申し訳ございません」だけでは泥沼状態を招くクレーム対応チームのM井さんに謝り方を教わる(イラスト:N本)「家に督促の手紙が送られてきてさぁ、家族に内緒で使ってるから困るんだよね」「も、申し訳ございません」「遅れたのは悪かったんだけど、もうちょっと前もって連絡してちょうだいよ」「申し訳ございません……」「今後もう遅れないようにするから、手紙は二度と出せないようにできないの?」「申し訳ございません」(わ、私「申し訳ございません」しか言ってない!)クレームになってしまった自分の電話の録音を聴いて、私は青ざめました。壊れたテープレコーダーのように一本調子でお詫びを繰り返すこんな電話では、相手に対する誠実さなんて微塵も感じられません。「謝ればいいと思っている」とお客さまが怒鳴るのもごもっとも。でもこのひたすら謝罪する「お詫びリフレインモード」は、まだ電話に慣れないオペレーターが度々ハマってしまうクレーム対応の罠なのです。苦情に不慣れなオペレーターの頭の中は、「クレームだ!」と一瞬にして真っ白になります。そして緊張してうまく受け答えができず、ついついお客さまの言葉の全てに「申し訳ございません」と応えてしまいます。結果、相手はこちらの態度を不誠実だと感じ、さらに怒るという泥沼状態を引き起こすのです。「N本さん、『申し訳ございません』はクレーム対応に必須の武器です。でも、もろ刃の剣なんですよ~」お客さまを怒らせてばかりいる私を見かねて、同僚でクレーム対応チームに所属するM井さんがニコニコと近づいてきました。「『申し訳ございません』を繰り返してる電話って、聴いていてくどいんです」。確かに、録音で聴いた私のクレーム対応の電話は、二言目には「申し訳ございません」という言葉を繰り返していて、とにかく聞き苦しいものでした。「じゃ、じゃあ、どうすればいいんですか?」「『具体的』に、謝るんです」「具体的な言葉」+「謝罪」で相手に対する理解を示すポカンとしている私に、M井さんはこんな説明をしてくれました。「お客さまがこちらの態度に不満を持っていたらその気持ちに対して、商品の不具合を言ってきたらそのお手間に対して、お客さまが怒っている事を具体的に前につけてから、『申し訳ございません』と言うんです」M井さん式クレーム処理法は、このような感じになります。「カードが店で使えなくて大変だったよ!」「お店で恥ずかしい思いをさせてしまい、申し訳ございません!」「さっきのオペレーターの態度が気に入らない!クビにしろ!」「先ほど対応した者がお客さまに不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません!」このように「具体的な言葉」+「謝罪」を繰り返すことで、「相手の気持ちを分かっている」と示すことができるというのです。「クレームを言って下さるお客さまは、謝ってほしいと思ってるだけじゃなくて、自分の気持ちを分かってほしいから電話をかけてくるんですよ」なるほど、そう言われると私の謝罪はうわべだけで謝っているように聞こえます。相手の気持ちを分かっていると示すこと、そのためにはただ謝るのではなく具体的に謝ることが必要。クレーム対応って奥が深いなぁ…と改めて感じさせられたできごとでした。(N本=えぬもと)
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