日本の労働組合が「第二人事部」なわけ

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   先日、東京新聞でこんな記事があった。

労組も守ってくれない 過重な残業「見ないふり」(2013年6月3日 朝刊)

   要約すると、従業員が過労死し、労災認定もされたのに、労働組合が当時も事後も知らんぷりしているという話である。

   ニュースになるくらいだからひどい話だと思われたのだろうが、筆者からするといかにもありそうな話だと思う。終身雇用型の組織において、労働組合とは「第二人事部」にほかならないからだ。

終身雇用のまま労働者が連帯しても状況は変わらない

   当たり前の話だが、交渉とは目的の違う者同士で行うものだ。

   組織をもっと成長させよう、あるいは株主にもっと利益を還元しようとする経営陣と、「そんなもんはどうでもいいから俺たちに今すぐもっと寄こせ」と主張する労働者は明らかに目的が違うので、この場合は労使の間で真剣な交渉が行われることになる。

   ところが終身雇用型の日本企業の場合、労働者は「配当とか設備投資なんてどうでもいい、今すぐもっと寄こせ」なんてことは言わないし、言えない。従業員自身、会社の永続的発展という目的地に向かい、社長と一緒に船を動かす乗組員なのだから当然だ。

   記事中で法学部のセンセイが「労働者が連帯すれば状況は変えられる」と言っているが、職場で連帯したところで、変えられることは限られている。経営陣が合理的な経営をしているなら、それはそのまま従業員にとっても望ましいものであるからだ。

   要するに、流動性が低く、事実上、労働者が組織と一体化している中で労組を作ったところで、それはどうやっても会社の一部門、第二人事部でしかないわけだ。

   さて、第二人事部の視点で、この種の問題を考えてみよう。ある部署の組合員から「助けてください、残業地獄で倒れそうです」というSOSが来たとする。しかし労組としては、

「よし、では採用増を要求し、受け入れられないならストだ!」

なんてことは言えない。下手に人なんて増やせば、後で暇になった時に組合員の誰かをクビにしないといけない。ストなんて打ったら売上が減って、結局は自分たちの賃金が減ることになる。せいぜい会社側に対処するよう依頼し、組合員に頑張れというくらいだ。

労働市場を流動化し「労使の目的地」を切り分けるべきだ

   サービス残業についても同じで、もちろん組合的にはきっちり払ってもらいたいのはやまやまだが、何か他の予算を削ってまで残業代を請求できるかというと、普通はしない。そう、まさに東京新聞の記事にある、すかいらーく社の労組の対応そのものだ。

   対策としては、労働市場を流動化して、労使の目的地を切り分ければよい。会社は株主への分配を追求し、労働者は労働環境の改善と労働者への分配を厳しく要求する。双方の利益が一致した部分では力を合わせ、そうでない部分については真剣な交渉をし、決裂すればお互い実現に向けた行動に出るようにする。

   そうすれば労働者は経営のために命を差し出す必要もなくなるし、企業横断的な労組を作ればストも張れるだろう。

   日本では年間300人前後が過労死し続けている。これは労災認定された数字だから、実際には氷山の一角に過ぎないはず。にもかかわらず、どの労組もスト一つ打たないし、問題解決のために抜本的な策を講じたという話も聞かない。

   労使が「組織の維持=雇用の死守」という共通の目的を共有するとき、実はもっとも重い負担を背負うのは、その組合員自身なのかもしれない。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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