社員旅行でケガ人発生! 「労災申請してください」に会社困惑

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   製造業に携わる人が減少しているためか、働く人の間で「労働災害」に対する意識が低くなっているという指摘がある。仕事によるケガなのに、労災制度を知らずに健康保険で病院にかかってしまう人がいるというのだ。

   逆に、労働災害に対する知識を持った人の中には、なんでも労災にしようとする人もいるという。ある会社では、社員旅行で転倒してケガをした社員から「労災申請してください」と要求され、人事が困惑しているという。

「会社がやってくれないなら自分で労基署に行く」

――金属加工業の人事です。当社は従業員40人程度ですが、創業者の社長を中心にまとまりある会社として地道に生き延びてきました。

   「社員は家族」というのが社長のモットーで、ここ20年ほど毎年会社負担で社員旅行に行っています。その旅行で今年、若手ホープのA君がケガをしてしまいました。

   観光地の階段を上っている最中に後ろの一般客が転倒し、そのあおりでA君が踊り場まで転落。腰を強く打って病院に運ばれてしまいました。

   骨折などの大ケガにはならなかったものの、A君はしばらく通院することに。しびれなどの後遺症のおそれもあると診断されたそうです。それを聞いたA君はショックを受け、

「これは労災になるんじゃないですか? ぜひ申請してください」

と人事に駆け込んできました。

   確かに社員旅行は全員参加が暗黙の了解になっており、実際にほとんどの従業員が参加しています。とはいえ強制参加ではありませんし、土日に行われるため業務という認識もない人がほとんどだと思います。

   しかしA君は「自分から行きたくて行ったわけでもないのに、任意なんてひどいですよ。会社が手続きしてくれないなら、自分で労基署に行きますから」と息巻いています。会社としてもできることはしたいのですが、労災と認められるものなのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
業務起因性がなく労災が認められるかどうかは微妙なケース

   労災認定は会社が行うものではなく、あくまでも労基署の判断によるものです。本人が労災申請を希望するのなら、会社は手続きを粛々と進め、判断は労基署に任せるべきでしょう。手続きにおいて、会社は労災であることの証明を求められません。会社がどうしても申請手続きをしない場合には、その事情等を記載した書類を添えて、本人が労災保険給付等の請求書を提出することができます。

   なお、業務命令ではない社員旅行は、原則として労災と認められません。労基署の労災課にも確認してみましたが、労災と判断するためには「平日に社員旅行に行っている」「社員旅行を休んだ場合に給料から欠勤控除される」などの状況が必要なようです。命令はなかったが全員参加しなければならない雰囲気がある「黙示の強制」があったとしても、社員のレクリエーション目的で行なわれたものは業務起因性がないことから、労災認定されるケースは少ないようです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
労災認定されなかったら会社が見舞金を支払っては

   他の社員への影響も考えると、若手のホープであるAくんが会社や仕事に対してネガティブな感情を持つことは、会社にとって大きなダメージとなります。雇用の流動化が進む中で、優秀な社員の退職やモチベーション低下は、中小企業の競争力を大きく損ないます。来年以降の旅行にも支障が出るかもしれません。アットホームな雰囲気は、一朝一夕にはできません。ここは会社と社員の距離感を縮めてもらえる機会と捉え、積極的に支援してよいと思います。

   今回のケースは、本人の不注意ではなく不慮の事故といえます。社員旅行への意識は「全員参加が暗黙のルール」で、不参加という選択枝がなかったかもしれません。認定されるかどうかは別として、会社として労災申請手続きを支援し、仮に労災認定されなくとも、見舞金などの名目で不慮の事故を見舞う気持ちを会社として見せることは、社員の帰属意識を高めることにつながります。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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