半沢直樹はなぜ「内部通報窓口」を使わないのか?

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   今年のテレビドラマのベストヒットとなりそうな「半沢直樹」(TBS系)。堺雅人が独特の表情で放つ決めゼリフ「倍返しだ!」は、間違いなく流行語大賞の有力候補だ。原作者の池井戸潤氏は元銀行員だけあって、「業界人」にとっても見ごたえのあるストーリー展開になっている。

   ドラマの中で半沢直樹は、支店長による背任行為に敢然と立ち向かい、ちょっと出来すぎだが、見事に十倍返しをして本部に栄転を果たす。そして本部では、さらに手ごわい巨悪、現役員と取引先との癒着疑惑の実態解明に挑んでいる。

   ところで、東京中央銀行に不正告発を受け付ける「内部通報窓口」はないのだろうか。大手銀行の合併で誕生したメガバンクであり、それこそ金融庁から内部管理態勢の強化を厳しく求められているのだろうから、ないはずはない。

「七つの会議」では思い悩んだ末にマスコミへ告発

現実の世界では半沢直樹のようなスーパーマンぶりは望めない
現実の世界では半沢直樹のようなスーパーマンぶりは望めない

   ではなぜ半沢は、上司や役員の不正を内部通報しないのか。それは、旧○○銀派閥の対立が渦巻き、自分の出世と保身に血道を上げる経営陣の不正を内部通報などしたら、確実に自分が潰されると知っていたからであろう。

   きっと、東京中央銀行では通報内容はすべて大和田常務に筒抜けで、経営に不都合な通報をした者は敢えなく返り討ちに遭い、島流しの片道切符を渡されるのが落ちだ。

   ではどうするか。悲しいかな、現実の世界では半沢直樹のようなスーパーマンぶりは望めない。泣き寝入りをするしかないのか。そうなると、最後の手段は外部への告発ということになる。

   同じく池井戸潤氏の原作によるNHKドラマ「七つの会議」では、東山紀之扮する東京建電の営業課長が自社の製品の強度偽装の事実を知り、一度は下請け先や社員を守ろうと率先して隠ぺい工作をする。

   しかし、経営陣のあまりに自己中心的な行状を知って幻滅し、思い悩んだ末にマスコミにすべてを告発する。一夜にしてすべてが明るみに出た会社は大混乱に押し入り、社長は逮捕され、社員は路頭に迷うかどうかの瀬戸際に立たされる。

   外部への告発は、自分の勤務先が破綻し、結局は自分の身も守れなくなってしまう事態を招きかねない。正義感、守るべき家族、自分の一言で路頭に迷うかもしれない同僚たち…。社員をこういうジレンマに追い込む上司や経営者は本当に罪深い。

「監査役」が通報対応の全権を握るのが理想だが

   昨年末に内閣府が実施した公益通報者保護制度に関する労働者向け調査によれば、労働者が内部通報しない主な理由は以下のとおりとなっている。

・会社から解雇や不利益扱いを受けるのがこわい
・通報しても十分な対応をしてくれないだろう(過去に通報したが対応が不十分だった)
・職場に知れて、いやがらせを受けるのがこわい

   通報者の不安を緩和するために、匿名通報を認めたり社外窓口を設けたりするのは、一般的になってきている。しかし匿名通報では、通報者からの継続的な情報収集や調査結果のフィードバックが難しいという問題がある。

   たとえ社外窓口を設けても、結局は通報内容が会社に伝えられるのであれば、大和田常務のような経営者が牛耳っているところでは気休めにもならないだろう。

   理想的なのは、特に経営者が関与する不正については、「取締役の職務の執行を監査する」役割を担う監査役を通報窓口として、監査役が通報対応および調査の全権を握るようなやり方だろう。

   もちろん、そのためには経営者におもねらず、公正な判断と毅然とした対応ができる人材を選ばなければならず、監査役をサポートする有能なスタッフの配置も必要だ。

   現実はそう簡単には進まないが、上場企業などでは監査役の半数以上を社外から登用することが義務づけられており、社外取締役も増えてきているため、体制整備はしやすくなっているはずだ。いずれにしても、まずは経営陣の人選を誤らないことに尽きるのだが。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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