「ウソつかない」と「全部オープンは無理」の間の綱渡り 不祥事の際、「企業を守る広報」の極意

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   前回に引き続き、同じ会社の広報室長だった時の話。マスコミ対応の極意は「逃げない、隠さない、ウソつかない」と書いた。では、企業の信用を失うような話まで何でもかんでもオープンにするべきなのかというと、一定のブレーキがかかる。マスコミに伝える内容が後で変われば、誤報となってしまう。「ウソつかない」には、「ミスリードしない」ことも含まれるのである。

   不祥事などの発表の際には、徹底した調査により、「動かしようのない不祥事かどうか」をまず確認する。どう転んでも不祥事である場合には、原因分析と対策、責任の明確化、再発防止策をセットにして発表するのが望ましい。ただし、発表が遅れれば被害が拡大するような場合はその限りでなく、まずは事実発表と注意喚起を優先する。社会的な影響の大きさを考え合わせながら、臨機応変に対応しなければならないのが不祥事広報である。

「ミスリード」避けつつ事実を公表し、致命傷は免れる

   一例をあげよう。この会社では、シンガポールのSPC(特別目的会社)が管理するファンドが大株主となり、社長にH氏が送り込まれた。ところが、H氏はわずか3か月で解任されてしまう。直接の理由は、H氏が金庫を預かる部長から複数回にわたって5000万円もの仮払金を受け取り、役員会にも報告しなかったことにある。

   この時、私は正直迷った。社長解任の事実とトップ交代はすぐに発表しなければならない。しかし、瀕死の状態の会社で、社長が担当部長から5000万円もの仮払金を引き出したことを理由にすれば、社長の犯罪、内部管理が全くなっていない会社ということになり、その段階で倒産する公算が大きかった。そこで、解任理由を中古の高級車「レクサス」を、役員会を通さずに800万円で購入した事実に転換した。仮払金問題は、現在進行形であり、H氏が返却する可能性がないとはいえなかったことから、ミスリードを避けた。動かしようのない不祥事ではないと判断したわけである。

   発表翌日、各紙には「社長解任、レクサスを800万円で無断購入」の文字が躍った。これだと、役員会を通さなかったミスということになり、致命傷を免れた。私はその後、退職したため、H氏が5000万円を返却したかどうかは知らない。ただ、広報パーソンとして、メディアに「逃げない、隠さない、ウソつかない」を守ったうえ、会社を救うこともできたのではないかと考えている。

   非上場の中堅・中小企業でも不祥事は起こりうるし、内容によってはマスコミに発表しなければならない。発表せずに、不祥事が発覚すると、命とりにもなる。企業を守るためにも、臨機応変に不祥事広報を行ってほしい。(管野吉信)

管野 吉信(かんの・よしのぶ)
1959年生まれ。日刊工業新聞社に記者、編集局デスク・部長として25年間勤務。経済産業省の中小企業政策審議会臨時委員などを務める。東証マザーズ上場のジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JDC信託)の広報室長を経て、2012年に「中堅・中小企業の隠れたニュースを世に出す」を理念に、株式会社広報ブレーンを設立。
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