2024年 4月 24日 (水)

「機械の側で小便も」の中国工場を大改革 成功導いたキーワード「S」とは

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「統制の効いていない組織は『躾』が存在しないから」

   中国工場長に就任したNさんがまっさきに導入を提案したのは、いわゆる「5S」の考え方でした。「5S」とは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の頭文字をとったもので、この5つの「S」を徹底して実践することで、現場の乱れを改善するというもの。比較的古くから日本の製造現場で実践された考え方でもあり、Nさんの発案を「5Sなんて古臭い」「美化運動が何の役に立つのか」と一蹴する社員がいたのも事実でした。

   しかし、Nさんには自身の経験から確かな持論がありました。

「5S運動では、昔から『整理』から順番に入りたがる人が多いのですが、私は違う。5Sの基本は『躾』がすべて。特に統制の効いていない組織は『躾』が存在しないからなのです。5Sを単なる美化運動に終わらせないためにも『躾』の徹底が不可欠です。作る製品は違っても、私はこれまで中国の工場をこれで変えてきた絶対の自信があります」

   社長から全権委任されたNさんは、細部にわたるルールを明文化して制定しそれを絶対に守らせる徹底した「躾」教育をおこないました。初めは戸惑っていた中国人労働者たちも次第になじみ始め、半年もする頃には「躾」教育に着いていけないものはドロップアウトし、自然淘汰の流れですっかり工場は統制の効いた製造ラインが出来上がったのでした。

   社長は、Nさん式「躾重視の5S作戦」の威力に圧倒されました。特にNさんの「統制の効いていない組織は『躾』が存在しないから」の一言が、胸に突き刺さったと言います。そこで、ベンチャーキャピタルからダメを出されている国内の業務統制も「躾」重視で根本的改善が出来るはずと、Nさんアドバイスの下に一気に手をつけるチャンスとばかりに、自ら陣頭指揮をとって動き出したのです。

   M社が着手した国内組織の「躾」とは、ルールや規定の整備と徹底、業務プロセスの定型化・標準化、社長以下社員の行動規範の制定と浸透、などです。それはイコール上場の基盤づくりにそのままなり、Nさんが基礎固めした中国工場の本格稼働による業績の進展ともリンクして、3年後にはめでたく株式上場を果たしたのでした。

「『躾』は身を美しくと書きます。当社は中国工場の改善で着手した『躾重視の5S作戦』で、経営者も社員も会社運営でも身を美しく保つことの大切さを学ばせてもらいました。この『躾』という会社経営不動の軸をもって、これからも当社は発展を続けてまいります」

   上場記念パーティ席上で、社長は大変印象的な挨拶を聞かせてくれました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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