「レッテル」にも効用あり 貼られて得た社長の気づきは

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「彼は、言ったことをすぐ忘れるからな......」
「あれは、理屈ばかりこねてすぐやらないんだよ」
「あいつは、いつも弱気なんだよなー」

   訪問先企業の社長が、自社の社員をこんな具合に評するのを随分とたくさん目にしてきました。

   これらは「レッテル貼り」といわれる類の発言です。

  • 注意喚起のため、ですか?
    注意喚起のため、ですか?

自身への戒めと備忘録と

   銀行員時代、社員への「レッテル貼り」が得意なある社長に、「社員に対する社長のレッテル貼りは感心しませんね」と苦言を申し上げたところ、こんなふうに切り返されたことがあります。

「なぜするかって、そりゃ注意喚起さ。『あいつは、言ったことをすぐ忘れるから』というレッテル貼りにはその続きがあって、『たびたび確認しながら進めなくちゃいかん』という私自身への戒めと、社員に対するつどつどの指導を忘れないための備忘録にもなるわけなのだよ。レッテル貼りはむしろ効率的、かつ教育的」

   なるほど、これはちょっとした目からウロコのご指摘でした。「レッテル貼り」というと、どうも悪い行いのように思われがちですが、必ずしもそうでない場合があるとは、意外なお話でした。この社長からは、「レッテル貼り」で大切なのは、「貼りっぱなしにしない」ことだというヒントをいただいたのでした。

二代目は「ワンマン」と選択

   それから数年後、従業員20数名の中小企業G社で、創業者の死去に伴う二代目へのバトンタッチを機に行われた組織活性化のお手伝いをしました。H社長は就任から半年。まだ社長としてどう振る舞っていいのかよく分かっていないようで、指示は出せども余計なことは一切言わない、「多くは語らぬ経営者」のイメージで指揮を執っていました。

   しかし会社に足を運ぶうちに見えてきたのは、指示の意図が十分に汲み取れないような社長の態度が、周囲の人たちにしっくり来ていないというもやもやとした実情でした。

   もうひとつ分かったのは、この多くを語らない二代目が、何か事があるたび周囲に社員の「レッテル貼り」発言をしていたことです。「ここだけの話」のつもりで幹部社員に話しても、小さな組織では回り回って本人の耳に入ることもあり、「自分は社長に評価されていない」「社長に疎まれている」などと受け取られ、それが元で退職が相次ぐといった事態も引き起こしていたのです。

   小さな所帯で複数の社員が相次いで退職するというのは、穏やかではありません。そこで私は、社員が二代目社長のやり方をどう見ているのか、誰がどんな回答をしたか社長には一切公表しないという約束で、全社員に記名式のアンケート調査を実施しました。するとその結果に、H社長自身が驚愕したのです。

   とくに社長が我が目を疑ったのは、二代目に対するイメージを「ワンマン」「牽引指導役」「仲間的」「その他」の4つの選択肢で聞いた設問に、約80パーセントの社員が「ワンマン」を選んだことでした。

「僕のどこがワンマンなのさ。本当に必要だと思う指示以外、余計なことは言わず、皆の自主性を尊重して、乱暴なやり方は一切していないつもりなのに。これはひどい誤解だよ。なんとしても早急に誤解を解かなくちゃだめだ。なんとかしてくれ!」

そのまま放置してはいけない

   少なくとも、社長の真意が社員にきちんと伝わっていなかったことは確かなようです。余計なことを言わずに必要な指示だけを出すコミュニケーション・スタイルが、社員には一方的と受け取られ、「ワンマン」と映ったのでしょうか。先代とのスタイルの違いがそう思わせたのかもしれません。いずれにしても気が付けば、社員から社長への「レッテル貼り」の逆襲をされたかのような展開になったのです。

   H社長には、どうしたら誤解が解けるのかご自身で方策を見出してもらうよう、コーチング的手法を使って、自ら考えてもらいました。その過程で社長自身が得た気づきは、「口数の少なさがワンマン姿勢と思われ、本当の姿が社員から見えていない。もっともっと社員と話をするべきじゃないか」ということでした。

   もう一つ、社長の社員への「レッテル貼り」発言について、今回自身がレッテルを貼られショックを受けたことから、貼られた社員の立場で考えて、「そのまま放置してはいけない」という気づきを得たのが、さらに大きな収穫でした。

「『レッテル貼り』は、誰しも自然とアタマに浮かんでしまうものだから止めるのは難しい。大切なのはレッテルを貼った後のフォローなのですね。僕も貼りっぱなしにはされたくない、だから社員に対しても貼りっぱなしにはしない。レッテルの裏側に何があるのか、積極的にコミュニケーションを取ってそれを見極めるよう努力する。心してまいります」

   あれから3年ほど経ちました。社長業もすっかり板についてG社の雇用はしっかり安定し、業績も順調と聞きます。良い「レッテル貼り」が功を奏しているならよかったと思います。レッテルの貼りっぱなし、していませんか?(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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