ストレスチェックの義務化が始まって以来、管理職に求められる安全配慮の比重は増加しています。義務化の背景には、仕事や仕事をめぐる環境において強いストレスを感じる人が昔より多くなっているという事情があります。歴史を振り返ると、日本の民間機関で、メンタルヘルスを健康管理と切り離し専門的な対処を開始したのは1968年、私がカウンセラーに従事していた日本鋼管病院精神衛生室でした。出世に8割が「満足」していた当時行われた某企業の管理職のメンタルヘルス調査を見てみましょう。管理職になって、(1)満足している人は全体の約80%(2)大変と考えている人は約15%(3)苦しいという人は約5%でした。48年前は管理職になるのがすなわち立身出世の「ほまれ」でありました。駆け出しのカウンセラーだった私が今でも覚えている中年男性からの相談は、次のようなものでした。「努力しても課長になれないんです」私が「ならなくてもいいのでは?」と応じると、「家族が『課長になって給料を上げて』と言うんです......」人事的には「昇格させたいけどポスト不足で困っている」という時代でした。管理職になりたくてもなれない人がいたのです。「ヒラに戻りたい」が現代48年前と比較して、今は管理職の仕事も昔と比べものにならないくらい多様化、複雑化しています。2015年に産業能率大学が実施した、上場企業の課長を対象にしたインターネット調査では、「ストレスの多い管理職の立場を離れて、ただのプレーヤーに戻りたい課長が増えている」という結果が出ています。私見ですが、この調査結果の要因を分析してみると、(1)メンタル不調の部下を抱えて対処がわからない、(2)職場がダイバーシティ(人材の多様化)状況になっていて、部下にいろいろな価値観の人がいてどのようにマネジメントしていいか苦慮している、(3)教えても分からない部下がいる場合、結局自分が後始末をやらなければいけないから、管理職になっても「煩わしい」ことだらけで大変――ということかなと思います。しかし、管理職の仕事の本質は「感情労働」です。つまり、感情を商品として「売る」仕事なのです。たとえイライラする仕事でも、理性的に対処できる能力が必要です。サーバント(奉仕者)リーダーシップの提唱者であるアメリカのロバート・グリーンリーフは、「リーダーは、まず相手に奉仕して、その後、相手を導くものである」というリーダーシップ哲学を展開しています。これから管理職になるという人は、高い職業能力を有するだけではなく、様々な折に直面する「煩わしい仕事」もいとわず、「人に奉仕することが楽しい」と感じられるタイプがいいのかなと思っています。(佐藤隆)
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