2018年 9月 25日 (火)

その「値引き」に妥当性はあるか 価格交渉の極意はコレだ!(大関暁夫)

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   クライアント企業のC社が展示イベントでブース出展をすることになり、競争の激しいブースへの呼び込みを強化したいとのご要望がありました。

   そこで、知り合いのイベントMCに関する専門家を紹介することにしたのですが......

  • 社長、値引き交渉には極意があるようです!?
    社長、値引き交渉には極意があるようです!?

「営業力ピカイチ社長VSプロMC」の価格交渉

   イベントMCの役割は、展示会でブース前を行き交う人たちに声をかけてブースに呼び込み、名刺集めを支援したり、あるいはアンケートに答えてもらいより商談に持ち込みやすい関係をつくる手伝いをしたり、などが主なものです。

   この手の展示会では、ブースによっては派遣コンパニオンのキレイどころを大量投入して、前を行く来場客を片っ端からブースに引っ張り込むことに注力している光景などもよく目にするところであります。

   C社は、これまでの展示会ではブースサイズが小さかったこともあり、社員が交代でブース前に立ち、即席の客引き係を務めていたのですが、やはり素人仕事では大きな効果まではありませんでした。

   そこで今回、ブースを従来の倍のサイズに拡大して目立たせることを決定。そうなると、いつもの倍のスペースの呼び込みを、社員が仕切るのは難しいと考えて、ブースへの呼び込みにプロの力を借りてみてはどうか、ということになったのでした。

   相談を受けて、私が紹介することにしたのは、さまざまな展示イベントで目覚しい呼び込み集客実績を上げているイベントMCのプロIさんです。

   Iさんとの事前打ち合わせでは、彼がイベントMCとしてどんなメニューを持っているのかを聞きイメージした後、話はS社長の人となりに及びました。私が、S社長を称して技術者だけれども営業能力もピカイチの一流の経営者であると話をすると、Iさんは多少心配顔になってこんなことを漏らしました。

「うちは金額がいわゆるコンパニオン派遣などに比べると高めなこともあり、提出した見積金額から無理な値引きを求められ困惑させられることが間々あります。その傾向は、営業畑でやり手の社長さんほど強いのです。もちろん私とコンパニオンではやることがまったく違いますから、それと比較されましても困る話なのですが...... わかっていない経営者、単に値引きばかりを求める閉口したくなる経営者っているのですよ」

値引き交渉に応じる「条件」

   私はS社長ご自身が自社製品を他社に売り込む際の、値引きの妥当性の考え方を事あるごとに聞いていたので、Iさんが懸念するような経営者ではないと言うことを伝える意味で、次のような話をしました。

「社長の値引きに関する持論は、値引きを求められて了承するのは、正当な理由があるときに限る、というものです。すなわち、求められている製品やサービスの質から考えて、値引きが妥当と思われるとき。あるいは、他社提供によるほぼ同質の製品、サービスが自社よりも著しく低価格であるとき。それ以外のケースでは、値引きは求められてもするべきではないとおっしゃって、社員にも安易な値引きはするな、応じるなと言っています」

   この話を聞いてIさんは、ひとまず安心感を得てくれたようでした。

   数日後、私とIさんはC社を訪問してS社長と面談しました。私がIさんを紹介すると、S社長は真剣な表情でいきなりIさんに質問をぶつけてきました。

「あなたがイベントMCのプロとして持っているスキル、特にうちの社員にはできないであろう現場プロのスキルとはどのようなものですか?」

   Iさんは、会っていきなりの真剣な質問に若干の戸惑いを見せながらも、胸を張って次のように答えました。

「私は、ご依頼いただいた企業がブースでPRしたい製品を事前に勉強して、オリジナルのプレゼンスライドを作成します。そして当日は、それを使って劇場的なプレゼンテーションをしながら、製品に潜在的に関心のある方も含めた商談チャンスにつながる人たちを、できるだけ多くブースに引き込むお手伝いをさせていただいています」

誤った価格交渉は経営者を、自社を貶めることに

   この話に、S社長はゆっくりうなずくとそれ以上の細かい質問はせず、あとは実務担当に

   「君たちから聞いておくことがあれば質問しなさい」と振りました。

   担当者との事務的なやり取りを、ひと通り終えたIさんは「それでは最後に......」と、やや緊張した面持ちで見積書を社長に手渡しました。社長はそれにざっと目を通すと、黙ってそこに「OK」と書き込み署名をしてIさんに手渡しました。Iさんは、満面の笑みで「ありがとうございます!よろしくお願いいたします」と御礼を返し、一気にその場の緊張感がほぐれ、ミーティングを終えました。

   Iさんは帰りの道々、晴れ晴れとした顔でこんな感想を話していました。

「S社長は素晴らしい経営者ですね。大関さんがおっしゃっていた通り、ご自身が考える価格正当性や値引きを求めるか否かの妥当性を、的確な質問ひとつでご判断いただけた。S社長のように正当な価値判断をいただける経営者には、精一杯がんばらせていただこうと思うものです。逆に、自分の仕事を正しく理解してもらえず、正当性を欠く値引きをさせられたりすると、気持ちが今ひとつ乗らなかったりするものですけどね」

   われわれが常日頃、安易に口にしがちな値引きとは、じつはものすごく難しいものであり、特に経営者の値引きは担当者のそれとは異なり、値引きを求めることの正当性があるか否かをしっかりと判断してから行動に移さないと、かえって経営者自ら、さらには自社をも貶めることにもなりかねない。そんな経営者自身の価格交渉の難しさを実感させられるお話でした。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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