2018年 7月 21日 (土)

「貿易摩擦」に敏感な日本株 大事なのは発言じゃない「トランプが何を実行したか」だ!(小田切尚登)

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   トランプ大統領の予測不能な行動は、世界にいろんな混乱をもたらしている。

   しかし、こと株式相場においては、その影響は限られていた。彼が2017年1月に大統領に就任して以来、世界の主要国の株価は1年以上順調に上昇してきた。

  • トランプ発言に右往左往!?
    トランプ発言に右往左往!?

2~4月、日本の株式市場であった「3つの谷」

   多少のネガティブな展開であれば、米国経済が減税により過熱ぎみなのを、少し冷やす程度の話で、たいして問題はないとみられた。さらにトランプ政権は基本的に「掛け声倒れ」というのが共通の了解だった。

   その中で唯一、貿易摩擦に敏感に反応してきたのが日本の株式市場である。今年(2018年)になって、日本の株価が低迷したのは2月から4月にかけてで、その間に3つの谷があった=別グラフ参照(出所:日本取引所グループ)

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(1)2月4日の米国産トウモロコシの対中輸出についてダンピングの疑いで中国が調査を始めた。TOPIXは2月5日に2.2%、2月6日に 4.4%下落した。
(2)3月1日にトランプがアルミと鉄にそれぞれ10%と25%の関税をかけると発表した。TOPIXは3月2日に1.8%、3月5日に0.8%下落した。
(3)3月23日に中国が米国の関税への報復で30億ドルの関税をかけると発表した。TOPIXは3月23日に3.6%下落した。

   その一方で、欧米の株式相場は6月半ばまで、それほど反応していなかった。どうやら日本の株式相場には貿易摩擦に対して特に大きく反応する傾向があるようだ(以上、日本株の推移についてはオックスフォード・エコノミックスの分析を参考にした)。

   それが6月19日に潮目が変わった。この日にTOPIXは1.55%下がり、米ダウ平均株価は1.15%下がった。ボーイングやキャタピラーなどの産業株の下げがダウを大きく押し下げた。さらに、中国の株価も大きく下がった。上海指数は1日で3.78%下がり、2年ぶりの下値になった。

   市場では、トランプは本気で貿易戦争をしかけており、世界経済に大きな地殻変動が起きる可能性がある、というのがコンセンサスになりつつある。未来への不安というのは投資家が最も嫌うところだ。

米国の貿易赤字、対中国向け3752億ドルで圧倒的

   ここで貿易摩擦の最大の戦場である米中の具体的な動きを見てみよう。よく知られるように、米国は巨額の貿易赤字を抱えている。その中でも、圧倒的に大きいのが対中国の貿易赤字で合計3752億ドルにのぼる。それに次ぐのが、対メキシコの711億ドル、対日本の688億ドル、対ドイツの643億ドルとなっている(米国政府発表の2017年の統計による)。

   中国からの米国の輸入は5056億ドルで、米国の中国への輸出1304億ドルの4倍近い。トランプはこの不均衡を是正するために関税をかけると言っている。もしも互いに関税をかけあったら、米国が中国の4倍近くの金額までかけられるので有利だろう、という発想だ。

   中国はそうなったらこちらも関税をかけると言っているが、それ以外にも二つの対抗手段がある。一つは中国元の切り下げである。自国通貨が安くなれば輸出に有利になるので、関税の影響を緩和できる。もう一つは米国債の売却である。中国は約1兆1800ドルの米国債を保有しており、この一部でも売り出せば米国に打撃になるとみられる。

   ただし、どちらにしても中国に副作用を及ぼす懸念がある。自国通貨安は資本流出とインフレを招く恐れがある。また、米国債を売ると中国自身の持っている米国債の価値が下がるし、中国元の為替レートの引き上げにつながるとみられる。そうなれば世界経済全体に大きなダメージを生むことは間違いないところだ。

   そこで投資家の対応としては「質への逃避」というのが基本になっている。不安な要素が多いので、できるだけリスクを減らしていこうということだ。具体的には米国債などの安全とされる資産が買われる。通貨では日本円や米ドルが買われている。逆に比較的リスクの高い新興国の株式などが大きく売られている。

米中貿易摩擦、全面戦争の可能性は低い?

   では、今後はどうか――。トランプ米大統領の行動は誰にも読めないので予測は難しいが、筆者としては基本的に楽観的に考えている。貿易戦争は米国の企業や国民にも悪影響を及ぼすので、いくらトランプでも全面的に踏み切る可能性は低いのではないか。中国と消耗戦してもメリットがないことは、彼も早晩理解するものと思う。

   そのため、世界の株式相場に極端なネガティブな反応は出ないと考えている。仮に株式相場が大きく下がるような事態になれば、トランプ米大統領も真っ当な経済政策をとることになるだろう。

   日本の株式相場は貿易摩擦に反応しやすい特徴を有しているため、今後もトランプ米大統領の一挙手一投足に反応して相場は変動していくであろう。しかし、こちらも全面的な米中貿易戦争というような極端なシナリオにならない限り、中期的には大きな下落はないのではないか。

   大事なのは「トランプが何を言っているか」ではなく「トランプが何を実行したか」である。「関税をかけるぞ」というのは「メキシコとの国境に壁をつくる」「ロケットマン」というのと同様に、単なるレトリックに過ぎない。そこに実際の行動が伴うかどうかがすべてである。

   彼の一言一言に振り回されるのではなく、流れを追うことが肝要だ。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ、60歳。
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