2018年 9月 23日 (日)

【連載】事業承継のサプリメント(その2)こんなことをやっていると「争続」に!!(湊信明)

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   皆さんは、相続争いをしている人たちを見て、どうして亡くなったお父さんやお母さんの財産のことであんなにも熾烈な争いをするんだろうと、疑問に思ったことはないでしょうか?

   相続争いが事業承継の場面で発生すると、それまで安定していると思われた事業が一夜にして立ちゆかなくなり、奈落の底にたたき落とされることがあります。そのため、細心の注意と対策が必要なのです。

  • 事業承継が「争続」になることも……
    事業承継が「争続」になることも……

事業承継が「争続」に! 経営熱心、先代の面倒も一生懸命見てたのに......

   私の父は、一代で会社を立ち上げてきましたが、年齢には勝てず、10年ほど前に引退し、その後は長男である私が経営を引き継いできました。

   父は、認知症を患い、次第に進行して、最期は私の顔を見ても誰だかわからないくらいまでになって亡くなりました。

   母はすでに亡くなっているので、相続人は、長男の私と弟の2人だけです。

   父は引退時に1億円ほどの預金を持っていたので、その後は父の承諾を得て、毎年、事業資金が足りなくなると、父の預金から援助してもらっていました。父は自分が立ち上げた会社のことを何よりも心配していたので、相続のときに困るだろうからということで、援助したお金は返済しなくて良いと言ってくれていました。認知症が進行してからは、だんだんに承諾らしい承諾はもらえなくなっていきましたが、父の会社に対する気持ちを考えれば、当然、承諾してくれるはずだと思い、毎年、同様に、父の預金から引き下ろして事業資金に投入していました。その合計額は10年間で5000万円です。

   また、私たち長男夫婦が父と同居して日常生活の面倒も見ており、父親名義の銀行預金のキャッシュカードでお金を引き出しては、日用品の支出、入院や介護施設入居にかかる費用などを支払って、父の面倒を見続けてきました。そのために使った金額は3000万円になっています。

   現在、弟と遺産分割協議をしているのですが、弟からは父が会社に対して行った合計5000万円の贈与は無効だから返せと主張しています。また、介護等のための3000万円も、私が父の介護ために父の預金を使用したとは信じてくれず、「お前は父親の預金を使い込んだのだろう!」と強く疑っており、これも返すように要求してきています。

   こんな要求をされては、父から引き継いだ会社の経営をすることはできなくなってしまいますし、生活も立ちゆきません。私は弟の要求に応じなければならないのでしょうか?

   中小企業で事業承継が行われる場合、たとえば父親から長男へなど、親族間の承継が多数を占めています。

   そして、長男夫婦が先代と同居したりして、先代の預金から介護費用を引き下ろして介護をするというケースも多いのが現実です。先代の父親が事業資金をサポートするというようなこともあります。

   しかし、ここで法律的にしっかり対応しておかないと、とんでもないトラブルに巻き込まれることになります。

父親の「意思無能力」が証明されると会社は返還義務を負う

   長男が引き継いだ会社は、父親から承諾を得て、会社に対して、10年間の合計で5000万円の贈与をしてもらったと主張しています。

   しかし、この父親は次第に認知症が進行して、最後は「意思無能力」になっています。意思無能力者による法律行為は無効ですから、父親が意思無能力者となった以降の贈与契約は無効ということになります。この父親がいくら会社のことを一番心配していたとしても、贈与契約時に意思能力が認められなければ、その法律行為は無効となってしまうのです。

   実際の紛争の場面では、介護施設などの介護記録や入院時のカルテ、看護記録などから、どの時点から意思無能力になったのかが争われることになります。その立証は必ずしも容易ではありませんが、この立証に成功すると、会社はその金額の返還義務を負うことになります。

   ここでは仮に、最後の5年間が意思無能力であったことが証明され、その間に贈与された金額が合計2000万円であったとすると、この2000万円の贈与契約が無効ということになり、父親は亡くなる前に、会社に対して合計2000万円の不当利得返還請求権を有していたと評価されることになります。

   そして、この2000万円の不当利得返還請求権を長男と次男が2分の1ずつ相続することになりますから、次男は会社に対してその2分の1の1000万円を請求できることになるわけです(長男も同額の請求権を会社に対して取得します)。

預金引き出し、「権限」のある、なしが「争続」の分かれ道

   次に、この長男夫婦は善意で父親の介護をしており、父親の財産も管理していました。もちろん、父親が認知症になる前に、父親から権限を授与されて管理していたというのであれば問題はありません。しかし、父親から財産管理の権限を授与されずに預金を引き出していたのだとすれば、無権限で預金を使ってしまったこと(費消)になりますし、認知症が進行した後に引き下ろしたとすれば、前述のような不当利得返還の問題が生ずることになります。

   このような事案の場合、真に父親のために使用したことが証明できるときは、実際には不当利得返還を請求されないで済むこともあります。

   ただ、現実には認知症の親の介護をしているときに、帳簿をつけたり、領収書を管理したりと、出入金を明確にしていないことが多いでしょう。

   そうなると、後日、紛争になったときに、真に父親のために支出したということが証明できず、その金額については使途不明金として不当利得返還請求を受けてしまうという残念なケースもあり得るのが現実です。

   仮に3000万円の支出のうち、1000万円の使途が証明できない場合には、法律的には、父親は生前に長男に対して1000万円の不当利得返還請求権を有していたと評価されることになり、この請求権を長男と次男がそれぞれ2分の1ずつを相続し、次男は長男に対して500万円ずつの不当利得返還請求をすることができることになります(なお、長男も、長男に対する500万円の不当利得返還請求権を相続しますが、債権者の地位と債務者の地位を併有することになり混同により消滅することになります)。

   今回の事例は、認知症の父親の存命中に何らの対策もしていなかったことから起こった悲劇ということができます。

   このように何らの対策もしないのでは、壮絶な相続争いは避けられません。このケースはわかりやすく説明するため、大変シンプルにしていますが、現実の事例では、事案はもっと複雑化し、金額もとてつもない額となり、会社が倒産してしまうというケースもあるのです。

   こうした事態にならないためには、後日、裁判になっても証明できるような証拠を残すこと、後見制度を利用すること、民事信託制度を利用することなど、さまざまな方法が考えられます。適時に適切な対応をしていくことが重要ですから、早いうちから弁護士によく相談することが不可欠といえるでしょう。(湊信明)

湊 信明(みなと・のぶあき)
弁護士・税理士
湊総合法律事務所所長。1998年弁護士登録(東京弁護士会)。約200の会社と顧問契約を締結して、中堅・中小企業に対する法務支援を中心に弁護士業務を行うほか、企業の社外取締役や社外監査役、学校法人の監事などにも就任。企業や組織の運営にも携わっている。
「濁流に棹さして清節を持す」がモットー。
2015年度、東京弁護士会副会長。関東弁護士会連合会常務理事。2017年度、東京弁護士会中小企業法律支援センター本部長代行など。
主な著書に、「勝利する企業法務 ~実践的弁護士活用法―法務戦術はゴールから逆算せよ!」(レクシスネクシス・ジャパン)「小説で学ぶクリニックの事業承継 ―ある院長のラストレター」(中外医学社)「伸びる中堅・中小企業のためのCSR実践法」(第一法規)などがある。
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