2024年 4月 26日 (金)

【IEEIだより】福島・双葉町レポート(その1)土地を売れない人々(越智小枝)

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「解体現場は撮らないでください」

   被災地の残酷な一面として、金銭が人の心を分断してしまう、という点があります。たとえば中間貯蔵施設の建設予定区域の外でも、家屋を解体するのは無料で行えます。

   ただし、それは家屋が「半壊以上」と認定された時のみです。2014年から、この半壊の判定は、原発事故の避難で長期間放置してきたことによる雨漏りやカビ、動物被害なども考慮して判断することが認められましたが、それでもこまめに手入れをした方ほど半壊と認定される可能性は低くなります。また津波の被害で家屋が全壊した場合の補償金とも金額が異なってきます。

   さらに、土地を公共施設の予定地として売るかどうかによっても得られる金額は変わってきます。

   クルマが中間貯蔵施設建設予定区域内を通る際、Hさんに注意されたのは、

「家屋の解体現場は、SNSに上げないでください」。

   ということでした。

「田んぼと家の一部を見ただけで、見る人が見れば『ああ、××さんは土地を売ったんだな』ということがわかります。その写真を他の人が見ることで『裏切った』などと言われることもあるんです。......工事現場に以前は『環境省』と書かれた看板もあったのですが、今はほとんど立っていないのも、『この土地が国に買い取られた』ということをなるべくわからないようにするためです」

   そういうHさんの話に、何ともやるせない気持ちになりました。同じ町で賠償金や補償金が違ってくる。さらに同じ補償金をもらえる人の中でも判断の違いで立場が違ってくる。行政が何かを判断して、一人ひとりが苦渋の選択をするたびに、町と心が分断されていくかのようです。

「土地を売ろうとして、『なんでこんなに安いんだ!』と怒り出す人もいます。東京電力の賠償は固定資産税の評価額が基準になりました。固定資産税の評価額が高ければ、その分、固定資産税も多くかかるんですよね。賠償金がこんな安いなんて、という気持ちの反面、土地を売らない人は高い固定資産税は払いたくない。その結果、賠償金をもらう人ともらわない人との間に心の壁ができます。他の町でも同じだと思いますが、ここにはそんな格差がたくさんあるんです」

   (注意:中間貯蔵施設の建設予定地内の補償の場合には、不動産鑑定評価を踏まえての補償になるので、東京電力の賠償とは仕組みが若干異なります)

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