2019年 8月 20日 (火)

ドル円相場、実質史上最小の週間レンジ その意味するところを探る(志摩力男)

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   2019年2月18~22日週のドル円相場のレンジは、高値で1ドル110.95円、安値110.39円と、わずか56銭レンジ(0.51%)でした。

   110.39円がトレードされたのが月曜早朝シドニー市場だったので、東京市場オープン以降で考えると、レンジは110.95円~110.45円のわずか50銭のレンジ(0.45%)と驚異的な狭さでした。

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ドル円が最も動かなかったのは2012年1月

   自分自身の記憶でも、これだけドル円の週間レンジが小さかったことはなく、1971年以降のドル円相場を調べてみましたが、興味深い内容がわかってきました。

   1970~80年代には、ほとんど動かない週が結構あったのですが、現在のマーケットと状況がかなり違うとみなし、データは1990年以降に絞りました。下記の表がドル円相場の過去最小週間レンジのランキングです。

週間レンジが最も狭かったのは2012年1月9~13日だった
週間レンジが最も狭かったのは2012年1月9~13日だった

   2012年1月9~13日週は、本当に動かなかった記憶があります。この年の秋にアベノミクス相場が始まるのですが、円の最高値近辺での揉み合いがずいぶん長く続きました。円高トレンドだったのでしょうが、ファンダメンタルズ的に円上昇の限界点に来ていたからかもしれません。

   双方の力が拮抗して動かなかったのでしょう。

   1994年12月は、95年4月の80円割れという超円高相場の直前です。あの急落のほんの数か月前に、これほどタイトな、のんびりした相場があったとは、今は意外に感じられます。ヘッジコストを削減したい一部の輸出企業が、その頃徐々に広まった「イン・ザ・マネー・ノックアウト・オプション」を多用した頃でした。

   詳しい説明は除きますが、95円前後にノックアウトレベル(停止条件の価格)を設定したケースが多く、95円に近づくと大量のドルの買い戻し、戻ったところで売り戻しというオペレーションが起こり、ドル円は102円から97円前後という狭いレンジに押し込まれました(1994年の年間レンジは113.60~96.12円)。すなわち、1994年後半の狭いレンジは「イン・ザ・マネー・ノックアウト・オプション」の影響でした。

   1ドル95円以下のノックアウトが1995年2月後半にトリガーすると、あっという間に円急騰の大荒れ相場となりました。

※「イン・ザ・マネー・ノックアウト・オプション」
オプションがイン・ザ・マネー、すなわち利益が出ている状態のところに、ノックアウト=停止条件を設定するオプションのこと。通常のオプションの場合、価格がイン・ザ・マネーに行けば行くほど利益が高まるが、このオプションの場合、停止条件に達するとオプションが消滅してしまう。つまり、多大な利益が一瞬にして消えてしまうリスクを内包している。

膠着相場の要因は3つ

   2015年12月の膠着は、2012年1月の膠着の真逆だったと言えます。トレンドは円安ですが、これ以上ファンダメンタルズ的に円安は難しいという限界点に来ていたのでしょう。日本銀行の黒田東彦総裁も「実質実効レートではこれ以上の円安には行かない」と発言していました。翌16年に日銀はマイナス金利を導入しますが、市場はそれに反応せず、高値から26円もの円高相場、アベノミクスの揺り戻し相場となりました。

   2014年は、アベノミクス相場が一服した時間帯でした。1ドル80円前後から100円台への相場を経て、市場は中休み中でしたが、すぐに三角持ち合いを上抜けし、黒田総裁の「バズーカ2」もあって、あっという間に120円台を示現しました。

   こうしてみると、これまで歴史的に狭いレンジが出現したときは、その後、かなり動くケースが多いということがわかります。反転相場のときもあれば継続相場のときもありますが、反転時に相場が膠着するケース増えている感じがします。

   現在の膠着相場の要因も、さまざまあるでしょう。しかし僕は、

(1) ファンダメンタルズ
(2) オプション等の影響
(3) AI(人工知能)の影響

の3点の要因があると思います。

   まず(1)ファンダメンタルズ的な理由から。金利差を考えるとドル高ですが、円の絶対水準がかなり安いことを考えると、ドル安になるべきと思っています。しかし、割安な円が調整されるプロセスですが、貿易黒字が増えて円買いが膨らみ、その結果円高方向に振れるというのが、一般的なプロセスだと思います。

   ただ、これには時間がかかる。また、多くの日本企業がすでに海外に進出し、国内への投資をさほどしていないので、日本の貿易黒字が大きくなるには時間がかかると思います。

   (2)のオプション等の影響ですが、1994年12月時と同様、何がしかの、ドル円が狭いレンジにおさまるような「賭け」がなされているのではと思います。

   通常のバニラオプション(基本的なオプション取引)では、相場を押し込めるようなほどの力はありません。何らかのバリア系、ノックアウト系の商品が111円以上にキャップしているのでしょう。ダウンサイドにも同様のものがあると思います。

「AI」が見るマーケットの動き

   そして、(3)AIの影響ですが、最近はこれが最も大きいと感じます。旧来からのトレーダーは、チャートを見たときにトレンドを探します。トレンドのあるとき、トレンドにそってポジションを持ちます。

   ところが、最近のIT技術者にはマーケットは違うように見えるのだと思います。おそらく地震計の針の動きのように、行っては戻る、戻っては行くを繰り返しているだけに見えているのでしょう。

   これが最近のマーケット感覚かもしれません。

   よってAIのモデルは、マーケットが下がると押し目買いし、マーケットが上昇すると吹き値売り、もしくはショート転、それを無限に繰り返しているのではないでしょうか。ただ、下がっているときに買い下がっているだけだと、どこかで損失が取り返しのつかないところまで膨らむかもしれません。そこで、損切りポイントを置くのですが、コンピューターで最適化した損切りポイントに、多くのプログラムの損切りポイントが集中することになります。

   損切りをかけるときには集中し、一気に値が飛んでしまうということが起こりそうです。

   すなわち、売買の両サイドに通常オーダー、すなわち下サイドには買いオーダー、上には売りオーダーが並び、ちょっとやそっとでは抜けきれないほど厚みが増すことになりますが、いったん売り崩されると、腰砕けになりやすいという特長があります。

   今後の為替トレーディングは、こうしたAIの特長を理解して、それを逆手に取っていく戦法が望ましいと思います。つまり、低い変動率と高い変動率が交互にやってくるのです。円高、円安に賭けるのではなく、動き出すのか、膠着するのか、「変動率」に賭ける感覚が重要になってきます。

   今は為替証拠金業者の中にも、オプション取引ができるところが出てきています。そうしたところを利用して、膠着が予想されるときにはオプションを売る、膠着から大きく動き出しそうな予兆があるときは、オプションを買って、それに備える。そうしたストラテジーが有効になります。(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
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