2024年 4月 20日 (土)

伊藤忠のTOB提案 なぜ、デサントは「敵対的=悪」と思ったのか?(大関暁夫)

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   スポーツ用品大手のデサントが、伊藤忠商事から経営権掌握の目的で、敵対的TOB(株式の公開買い付け)を仕掛けられたと報じられました。

   これに知り合いの2~3年後の上場を想定している、中堅IT企業の経営者O社長が反応しました。

  • 「敵対的TOB」は悪か!?
    「敵対的TOB」は悪か!?
  • 「敵対的TOB」は悪か!?

伊藤忠がデサントにTOBを仕掛けたワケ?

「どちらも、うちから見れば大企業なのですが、より大きな伊藤忠が自分たちの言うことを聞かせようと、資金力にモノ言わせて経営を牛耳ろうっていうのですから、個人的にはデサントが気の毒になります。 聞けばこれまでも長年取引があり、社長も一時期は伊藤忠から来ていたのを、創業家が追い出したものだから、先方の逆鱗に触れたのだと。我々のような小さい企業は仮に上場しても、取引先の大手企業がその気になれば、企業買収なんか容易にされてしまう。そんな存在です。デサントさんも伊藤忠に比べれば、ちっぽけなものでしょうから、本件は先々うちが上場した後を考えると本当に身につまされる思いです」

   過去にハゲタカファンドをはじめとした強引な敵対的TOBを目にする機会が多く、どちらかといえば「敵対的買収行為は悪」というイメージが一般的に根付いているようにも思える我が国では、経営者レベルでもO社長のような拒絶反応に近いものが出てくるのは珍しくありません。

   ただ、「デサントVS伊藤忠」の件は、よくよく伊藤忠サイドの言い分を読んでみると、必ずしも社長が言うような弱肉強食的なやり口ではないようです。伊藤忠が目標とする最終的な持ち株比率も、支配権を得る過半ではなく40%に抑えているという姿勢も含めて、個人的にはむしろデサントにとって好意的な申し出であるように思えるのです。

   伊藤忠の言い分によれば、現状のデサントのやり方はリスクが大きいと指摘しています。その理由は、売り上げの過半が日本や欧米に比べて市場規模の小さい韓国市場向けであるということ。それを必要以上にリスクと考えるのは、デサントが過去にも同じような売り上げの偏りがあり、その市場の縮小で経営危機に陥ったことがあるからなのです。

   しかも、そのときデサントを救済したのが伊藤忠で、それが両社の結びつきの発端だったというのですから、同じ轍を避けたい伊藤忠としては当然の懸念かもしれません。

「企業価値」を高めるのは、どっちだ!?

   伊藤忠は現状打開策として、同社の幅広い人脈を活用した国内市場の拡大と、より大きなマーケットである中国市場への進出を提案しています。

   さらに、その戦略を押し進めることで結果的に両社にプラス効果が生じることを強調。今回の敵対的TOBが、決して相手の経営権を手にして自社の配下に置こうという大企業の規模拡大戦略の一環や、買収後に整備して会社ごと売却して利益を得ようなどという、儲け主義的な発想ではないことは、敵対的とは言い難いTOBとして注目に値すると思います。

   すなわち、今回の敵対的TOBは、経営改善提策を直接取引のある企業の伊藤忠が提案し、デサントの現経営陣が考える成長戦略と、どちらがよりデサントの企業価値を高めることになると思われるのか、株主の判断を仰いでいるのだと受けとめることが正しい理解ではないかと思うのです。

   それに対してデサント側のコメントは、現状伊藤忠の敵対的TOBは大義がないと批判をするに留まっており、伊藤忠が提示している中期的な成長戦略に対抗する現経営者としての現状路線の正当性とそれに基づく中期戦略の提示が待たれるところです。

   双方の中期展望が出揃うならば、どちらがより株主にとって有益な戦略であるのか、あとは株主たちの判断を待つのみとなるわけなのです。

「敵対的TOB」は「悪」 そう勘違いする社長はこんな人

   買収、特に敵対的TOBというと、なんとも強引な感じがして「悪」のイメージがつきまとうのですが、今回のようなケースでは株主に対して経営改善提案をされているのだという観点で捉えるなら、それはその行為そのものを無条件に拒絶すべきものとして考えるべきではなく、むしろ前向きに提案を受けとめながら、それに勝る対応策を考えるのか、あるいは提案を受け入れるべきなのかを真摯に考える、そういった姿勢で捉えるべきものではないのかと思うのです。

   「敵対的」という言葉の印象が悪いのかもしれません。あるいは過去の実例におけるハゲタカ的なやり口が、先入観につながっているのか。本件は、企業買収やTOBに対する正しい理解を醸成する、いい機会になるのではないかと感じるのです。

   デサントが必要以上に伊藤忠のTOBを悪者扱いするのは、やはり現トップが創業家であり、自社が自分のものであるという意識が考えの根底にあるからではないかと思います。個人的には、ここに大きな勘違いがあると思っています。

   上場企業、すなわち株式を公開している会社は「誰のものか」と言えばそれは株主のものであり、経営者の利益よりも株主の利益を優先して考える経営が求められるからです。

   この一件を経営者の立場から見ていたO社長もデサントに同情的で、「伊藤忠=悪」と感じていました。これは、O社長がデサント社長と同じく創業家社長であるからなのでしょう。もちろん、O社長の会社の株式は未公開の100%自己所有ですから、現時点で自社を自分の持ち物と考えることは正当な考えであるといえます。

   しかし近い将来、自社の上場を考えるという立場からは、上場すること、すなわち株式を公開するということの意味合いについて、上場までにしっかりと正しい理解をもっていただきたいと思うところなのです。

   デサントに対する敵対的TOB報道に、世の中の「会社は誰のものか」に関する正しい理解は意外なほど進んでいないのだと、はからずも実感させられた次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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