イノベーションを加速する東京のR&D拠点として、2018年12月浜離宮にリニューアルオープンしたPanasonicLaboratoryTokyo(パナソニックラボラトリー東京)。AIやIoTなどの先進技術を開発する技術者を中心に、社内外とのコラボレーションを進めるこの拠点は『共創と集中の両立』をコンセプトにデザインされている。このリニューアルプロジェクトを主導したのが、パナソニックラボラトリー東京所長の井上あきのさん。「コラボレーション生むための場だからこそ、一人で集中できる場が必要」と語る井上さんに、「一人で集中して考える時間」から逆算する新しい働き方とはなにか、を聞いた。一人ひとりがいいアイデアを持って「共創」の場に臨む――なぜ、DeepThinkRoomをつくろうと考えたのでしょうか。井上あきのさん「きっかけは、パナソニックラボラトリー東京(PLT)のリニューアルでした。2016年4月、有明に開設したPLTは、WonderLABOsaka(ワンダーラボ大阪)、PanasonicLaboratoryFukuoka(パナソニックラボラトリー福岡)と連携して、全社のイノベーションを支援するための活動に取り組んでいます。その中で、PLTのリニューアルプロジェクトでは『おしゃれ』『心地がいい』といった表面的なことではなく、イノベーションが生まれるための環境に、『どんな要素』『人の行為が必要なのか』に着目しました。世の中に共創の場は数多く存在していますが、共創の質を上げるためにはどうしたらいいのか。行きついた答えが、一人ひとりがいいアイデアを持って共創の場に臨むことです。参加する人がいいアイデアを持ち寄らなかったら、また、アイデアに深く向き合っていなかったら共創してもイノベーションは生まれません。コミュニケーションの時代だからこそ、一人で集中して考えることを尊重する働き方、そして環境が必要だと感じましたし、アイデアを生むプロセスも含めて、個で深く考えたものを持ち寄ることで共創の質を上げることができると思いました」――「集中」の価値はどんなところにあると思いますか。井上さん「二つ思うことがあります。一つは、集中する時間を持つことで自問自答することができ、アイデアが深まるということ。二つ目は、頭をフル回転させたあとの、フッとした瞬間にアイデアが生まれやすいということです。以前の有明のオフィスは、ベイエリアで海が一望できるとても景色のいい場所で、他のオフィスとの大きな違いが『遠くが見える』という環境でした。その時の経験で、遠くを見ると集中できるという感覚が自分の中に、なんとなくあったのです。その後、ある専門家の方から『遠くを見るといい緊張感をもつことが出来る。そしてアイデアは熟考したあとの何気ない瞬間に生まれる』という話を聞いて、自分の感覚と専門家の方の言葉が合致しました」「話しかけないで、と言いづらい」を解決する井上あきのさんは、「社内が共創の時間と独創の時間を切り替えて仕事をできるようになってほしい」と話す。――DeepThinkRoomができて一番変化を感じるところはどこですか?井上さん「一番変わったのは『集中を予約する』ということで、これが画期的なことだと思います。DeepThinkの時間を持つことで、その時間から逆算して仕事を組み立てるようになりました。DeepThinkの時間に向けて、事前情報を集めたり、どんなアウトプットが必要なのかを考えたり、大切な時間だからこそ、一人で考える時間に向けての前準備をするようになりました。また、DeepThinkの際の頭の使い方は、ふだんとは違う気がします。今までは無意識にやっていたのかも知れませんが、意識的に脳のモードを変える(コントロールする)ようになりました」――今後、実現したいことはありますか。井上さん「社内が共創の時間と独創の時間を切り替えて仕事をできるようになってほしいです。『いつでもなんでも聞いて』というスタイルは、集中のためにはよくないかもしれません。もっと、一人で悩んだり、一人で深掘ることが重要なんじゃないかと。働き方のカルチャーを変えていく必要があると思います。ただ、日本人的な感覚なのかもしれないですが、正面切って『話しかけないで』とは言いづらい。それを自然な形で解決してくれるのが、DeepThinkのための空間なのではないかと思います」(聞き手:井上一鷹)《プロフィール》井上 あきの(いのうえ・あきの)パナソニックイノベーション戦略室パナソニックラボラトリー東京所長松下電器産業(当時)入社後、2012年よりPanasonicR&DCenterSingaporeへ出向、同社社長。2015年よりパナソニック全社CTO室に出向復帰し、2016年にPanasonicLaboratoryTokyoを立ち上げ、拠点責任者として企画運営全般を担当。
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