フォーリーブス、郷ひろみ、田原俊彦、近藤真彦、シブがき隊、少年隊、SMAP、嵐、KinKiKids、タッキー&翼、関ジャニ∞、King&Prince......さまざまな男性アイドルを世に送り出したジャニーズ事務所代表取締役社長のジャニー喜多川さんが、2019年7月9日、逝去しました。ジャニーズ事務所は多くのスターを輩出。そして今も、次々と新しいスターを世に送り出しています。ジャニーズ事務所のタレントたちが魅力的であることは間違いありません。しかし、こうして彼らの魅力を引き出したのは、ジャニー喜多川さんの「新人育成に対する心構え」にあるのではないでしょうか。生前に彼が残した言葉から、その心構えを読み解いていきます。「YOU」はジャニーさんの心遣いジャニー喜多川さんは、所属タレントたちのことを「YOU」と呼ぶことで知られていました。「YOU」と呼ぶ理由には諸説ありますが、ジャニーさんが逝去された後、元・少年隊の東山紀之さんが「『YOU』と呼ぶのはジャニーさんの心遣いだった」と話しました。名前を間違われて傷つく人は少なくありません。他の人は名前で呼ばれているのに自分だけ「君」と呼ばれたら、「自分だけそう呼ばれるなんて、存在感が薄いのかもしれない」と考えてしまう人もいるでしょう。ジャニーさんは、タレントが傷つかないように、誰に対しても「YOU」という呼称を使っていたそうです。「YOUはいいね」「YOUたちはすごいよ」社長という立場の人が、「YOUたち」と気軽に声をかけることで、その距離がグンと縮まることもあるでしょう。若齢の青少年であれば、その効果は大きいはずです。こうしたささやかな配慮ができるからこそ、新人が伸び伸びと成長していくのではないでしょうか。「どの子だってみんな人間の美しさってあるんですよね」ジャニーさんは、あるインタビューで「人間のどの辺を見る?」と聞かれた際に、こう答えました。「みんないつかは自分が実るだろうという気持ちが当然あると思う。(中略)タレントは一生というのがあるから、このままポーンと捨てる気は全然ないですよね。彼らが生きる限りは絶対やっていかなきゃいけないという信念はありますよね」「この新人を、こういう風に育てたい」と理想像を抱き、そう育つように指導している上司は少なくないでしょう。実際にその通りに育てば、職場にて戦力となってくれるでしょうが、できないことをやれと言われて、途中で心が折れてしまう新人も少なくありません。すぐに成長しなくても、ゆっくりじっくり育てていく。できないからと言って見捨てない。ジャニーズ事務所のタレントが個性豊かでありながらも魅力的な人ばかりなのは、ジャニーさんのそうした心構えのおかげではないでしょうか。「好きなことをやりなさい」の真意「みんなそれぞれ美しさを持っている」という強い信念があるからこそ、ジャニーさんは所属タレントに対して「○○をしなさい」と指示することはありませんでした。「好きなことをやらせて、自己プロデュース力を育てる」ジャニーさんのこの言葉には、そうした意図があったそうです。一般的な職場では、好きなことだけやらせることは難しいかもしれません。けれど、「指示するだけでなく新人の意見を聞いてみる」「やりたそうにしている仕事は積極的に任せるようにしてみる」など、できることはあります。自己プロデュース力が育つだけでなく、「信頼して仕事を任せてもらえている」と思えることで、仕事への自信にもつながります。「ボクは夢を作る側の立場だから」ジャニーさんは、「夢」についていくつかの発言を残しています。「出世の方法ではなく、夢に向かって頑張ることを教えたい」「可能性のあるなしに関係なく、夢を描くこと」そのうえで、「自分は夢を持っていない」と発言。その意図を、こう話していました。「そんなこと言うと、何だかわびしい人間みたいだけど、ボクは夢を作る側の立場だから」新人の夢や個性を認めて育てることを生きがいにしていたジャニーさん。そんな彼だからこそ、所属タレントたちは彼の死を大きく悲しんだのでしょう。ただ人材を育てるだけではなく、信頼関係まで構築したジャニーさんの新人育成の心構えは、長く語り継がれるものになるかもしれません。(松田優)プロフィール松田優(まつだ・ゆう)作家、ライターゲームソフト開発会社勤務時代からライターとして活動。「底辺ネットライター」の実態を綴った覆面ブログが人気。2019年6月にビジネス系の書籍「かぼちゃの馬車の"クレーム"ブリュレホーメスト倒産事件を電子スイーツに仕立てた人たち」を出版。ウエブマガジンのライティング、小説家、ジャーナリストとして執筆中。また大阪を中心に、ラジオ出演など多方面で活躍している。1983年生まれ、大阪在住。
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