2024年 4月 26日 (金)

「脱サラ起業」の成否... その肝は「ポジティブマインド」だった

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   日本経済団体連合会のトップをはじめ企業経営者らは近年、終身雇用制の継続困難を口にする機会が多くなり、雇用される側のあいだでも転職が珍しいことではなくなっている。双方をターゲットにした人材サービス会社のテレビCMもオンエアの頻度を増しているようだ。

   勤務先以外の道を進みたいサラリーマンにとっての選択肢は、転職のほかに、起業・独立がある。だが、その成功率は1~2割程度とみられリスクが高く、テレビCMもない。本書「さらば!サラリーマン 脱サラ40人の成功例」(文藝春秋)は、先人たちのサクセスストーリーを集めた格好の教科書だ。

「さらば!サラリーマン 脱サラ40人の成功例」(溝口敦著)文藝春秋
  • 「起業」の成否は「ビフォー」から占えるようだ
    「起業」の成否は「ビフォー」から占えるようだ
  • 「起業」の成否は「ビフォー」から占えるようだ

著者の溝口敦さん、自らも脱サラ経験

   著者の溝口敦さんは、暴力団など反社会的存在をテーマにした数々の作品、レポートで知られるノンフィクション作家。出版社勤務からフリーに転じた独立経験を持ち、「脱サラ」に特別な思いがあり、同じように独立あるいは起業した人たちの取材も精力的に重ねていた。それらは「さらばリーマン」のタイトルで月刊誌「ウェッジ」で連載。その数は約130本にのぼる。本書は、そのうちの40人分を選び単行本化したものだ。

   「起業の夢を実現する」「故郷で第二の人生を」「職人として生きる」「趣味を活かす」「人の役に立ちたい」―というテーマごとの5章立て。それぞれ8人についての起業ビフォーアフターの物語が収められている。

   40人分のストーリーのなかで折に触れて語られるのは脱サラ起業の難しさだ。

「安易な起業は失敗する。たとえばラーメン店である。ラーメン店は開店して1年で4割が閉店するとか。3年たてばさらに3割が閉店、3年以上営業できる店はわずか3割にすぎないとされる」
「100人が起業する。成功するのはそのうちの1人。なんとかその仕事で飯が食えるようになるのはぜいぜい10~20人。残りの人たちは大失敗に終わる」
「脱サラして起業しても、8~9割は失敗する。そのなかで前職と違う仕事に飛び込み、一国一城の主となった。珍しいケースであり、学ぶことは多そうである」

客が欲しがるものは何でもそろえた

   本書で紹介されている成功例をつぶさにみると、全員に共通というわけではないが、起業に立ちふさがる困難を突破できる人たちはポジティブなマインドの持ち主で、それは起業のビフォー時代からすでに発揮されている。

   大手旅行代理店に長らく勤務し「役員」目前で退職、55歳のときに葬儀会社を設立した男性。都内の支店勤務時代には、得意先の視察旅行で案内役を務め年間200日も海外で過ごす生活だったが、まるで苦しいとは思わなかったという。そうした勤務ぶりから周囲に引き立てられ、自らは望んだものではないが昇進が続く。

   葬儀会社をやりたいという気持ちを募らせとうとう決断。しかし、葬儀のことは何も知らなかった。だが持ち前のポジティブさで道が開け、9年後に社員9人を抱えるまでに成長した。

   三菱系の建機会社で役員を務め定年退職後、生分解性プラスチック製造に竹粉を利用するなど竹林ビジネスを起業した男性は、低迷していた西関東の販売会社の社長を任され、その牽引力で立て直した実績を持つ。

   「私が立てた目標は、得意先が必要とするものは、なんでも揃えてお届けすること」とし、自社で扱っているかどうかに関係なく顧客の役に立つことだけに集中したという。「社員にやる気が出れば、決して難しい仕事じゃない。もちろん社員の尻を叩くだけでなく、成績のいい人は褒め、優秀者は表彰する」。やがて販売会社は黒字に転換、全国の販社のなかでもトップの成績を上げるまでに立ち直った。

昭和の品を発掘

   江崎グリコの営業マンから、「前掛け」に商機を見つけた男性も、積極的で気配りの利いた得意先めぐりがビフォーのストーリーとして語られる。

   「前掛け」は、昭和のころには、酒屋や八百屋などの店主が身に着けていた「胸当てのないエプロンの頑丈版」。昭和ブームなども手伝って、この「前掛け」が復活・普及の動きをみせているが、それを担っているのが、グリコの元営業マンだ。

   サラリーマン経験は5年足らず。だが、フットワークと気配りで「ペーペーでしたけど、3年目くらいからは先輩を差し置いてリーダー的に振る舞えるようになった」という。

   グリコに入社してスーパーなどを回るうち「他社の営業はたいてい自分のところの商品しか説明しない」ことに気が付いた。「だからバイヤー(小売店の仕入れ責任者)はその商品の全体像をつかみにくい。ぼくは、世の中で今、どのような商品が売れているか、トレンドは何かを、などを簡単にまとめ、バイヤーに説明した。バイヤーだって自分の成績が上がるような情報がほしい。喜ばれました」という。これで先輩らを出し抜いた。

   このポジティブさを生かして元グリコ営業マンは、平成に入り絶滅しかかっていた「前掛け」を見つけ出し、社業を軌道に乗せた。

   本書に登場する40人それぞれの「成功の閾値」は、著者が言う通り、それぞれに違うが、ポジティブマインドはほとんどの人に共通しているようだ。

「さらば!サラリーマン 脱サラ40人の成功例」
溝口敦著
文藝春秋
税別850円

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