2019年 12月 13日 (金)

なぜ今、現代財政理論なのか 意図的? 消費増税でも「カネ不足」政府にとっては好都合(鷲尾香一)

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   2019年初めから、現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)という新たな経済理論がメディアなどの盛んに取り上げられた。

   MMTの最大の特徴は、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建を行わなくとも、財政が破たんすることはない」という考え方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破たんもしていない「日本」が取り上げられているためだ。

  • 「現代貨幣理論」「現代財政理論」なんだか政府に都合よくないか……(写真は、安倍晋三首相)
    「現代貨幣理論」「現代財政理論」なんだか政府に都合よくないか……(写真は、安倍晋三首相)

日本は世界でも稀な「成功例」

   国内では、数年前から「政府総債務残高が家計純金融資産残高を上回なければ、国債消化に困難が生じることはなく、財政危機が起きることはない」という考え方「現代財政理論」が、一部の学者やエコノミストのあいだで唱えられている。

   MMTでは財政について、不況期には政府が借金をしても(財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間に回り、景気が回復すると考える。

   不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化するという考え方だ。そして、「政府債務がどれだけ膨らんで、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務不履行に陥ることはない」と理論付けている。

   その根拠としているのが、「政府は『通貨発行権』を持っており、いくらでも通貨を供給できるため、債務の期限が到来した場合には、通貨を発行して支払いを行えばよい」との考え方だ。つまり、「財政ファイナンス」を認めることを前提としているのだ。

   現在の経済学の主流派は、財政ファイナンスを増税なしで生活が潤うことを欲する国民に対するウケのよさだけを狙う「ポピュリズム的」な政策に利用されやすく、インフレの加速を招き、結果として国債価値の暴落によって通貨価値を毀損し、財政破たんのリスクを高めると、財政ファイナンスには否定的だ。

   また、MMTでは不況時に支出された財政資金は、好況時に徴税(税金)を通じて回収されるとしており、景気の状況に応じて税率を変更するという考え方をしている。これは、税金が物価のコントロールにも使われることを意味する。

   たとえばデフレ経済下であれば、減税を積極的に行うことで、財政出動と相まって景気を回復できるとする。好況時にインフレ状態になれば、増税を行うことで景気を冷え込ませ、財政出動分を回収するというわけだ。

   ただし、MMTには絶対条件がある。それは、自国に通貨発行権があることや自国通貨建て国債を発行していることだ。

しぼむアベノミクス効果に、政府は補正予算の編成に意欲

   とはいえ、現代財政理論には、いくつかの疑問がある。

   そもそも、政府総債務残高の上限が、なぜ、家計貯蓄なのかという点だ。家計が保有する国債は発行額全体の2%にも満たない。家計からの貯蓄を受け入れている金融機関も資金運用の大半は国債以外のもので行っている。つまり、国債の消化能力を家計に置き換える根拠は見つからない。

   むしろ、国や自治体のほうが国債で運用されているものが多く、さらに家計の貯蓄を国債による運用のための余剰資金と考えるならば、企業の内部留保のほうがはるかに国債による運用のための余剰資金としては妥当だろう。

   こうしてみると、MMTや現代財政理論が盛んに取り上げられる背景には、財政政策を出動させるための「免罪符」を得ようという意図的な思惑があるように見えてしまう。

   10月1日から消費税率が2%引き上げられて10%になった。消費税率1%の引き上げは、約2兆円の税収増となる。2%の引き上げでは約4兆円の税収が増加するはずだ。しかし、2019年度の税収は当初予想を大幅に下回ることになると予測されている。

   国民に負担を強いて消費税率を引き上げても税収は不足。その一方で、政府は2019年度の補正予算を編成して経済対策を打ちたい。アベノミクスの効果がしぼんでしまったからだ。

   つまり、政府にとって頼れるのは財政資金しかない。「財政健全化」を黙殺するためにも、財政政策の規律を緩める財政理論は「勿怪の幸い」なのかもしれない。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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