2021年 6月 21日 (月)

世界同時株安 新型コロナ「パンデミック」が「最悪の相場」でないワケを言おう(小田切尚登)

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   世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染拡大について、「パンデミック」(世界流行)を宣言。それを受けた米ニューヨーク株式市場のダウ30種平均株価が「ブラックマンデー」や「リーマン・ショック」を思う出させるほど急落するなど、世界中の株式相場が大変な状況になっている。

   そこで今回は、株式相場はこれからさらに下がっていくかどうか、考えてみたい。

  • 新型コロナウイルスの「パンデミック」で株価は乱高下
    新型コロナウイルスの「パンデミック」で株価は乱高下
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新型コロナウイルス にわか解説者が煽る危機感

   1980年代から金融の世界にいた筆者が「最悪の相場だ」と感じたことが二度ある。

   一つは2008年のリーマン・ショックの時だ。当時の日経平均株価の下落を振り返ると、2007年に1万8138円をつけてから下落を始め、その後1万8000円台に回復したのは2015年だった。

   つまり、回復までに約8年を要したということだ。それ以上に悲惨だったのは1989年末のバブル崩壊だ。当時の最高値3万8915円は、その後30年経過した今も遥か彼方にある。最悪の事態とは、このように回復までに何年も何十年もかかることを意味する。

   しかし、今回の相場への影響はそこまで深刻なものにはならないと、筆者は考えている。回復までに何年もかかるということはなく、数週間あるいは数か月という時間軸で相場が戻ってくる可能性が高いとみている。

   筆者が何故そう考えるかについて以下、解説したい。

   我々は2000年以降に6つの感染症の世界的流行を経験した。SARS(2002年)、豚インフルエンザ(2009年)、MERS(2012年)、鳥インフルエンザ(2013年)、エボラ(2013年)、ジカ熱(2015年)である。これらはどれも深刻な事態を招いた。

   たとえば、豚インフルエンザには世界で十億人以上が感染し、米国で一万人以上、世界では数十万人が亡くなった。致死率を見るとMERSは35%程度、SARSが10%程度で、新型コロナウイルスの推定致死率1%程度というのよりケタ違いに高い。しかも基本的にこれらの疾病には、今も有効な治療法が存在しない。それでも株式相場に対する影響という点では、それぞれ一時的に若干の悪材料にはなったものの、株価は中長期的にはこれらと無関係に上昇していった。

   ところが、新型コロナウイルスはそれまでの感染症とは次元が違うような大きな影響を及ぼしている。新型コロナウイルスは、類似のものに比べて特段危険性が高いわけでなさそうなのに、何が違うのか?

   それは、ひと言でいえば、「パニックが起きたから」ということだ。今は一般人が感染症のリスクについての情報を、SNSなどで簡単に得られるようになっている。最初に中国の湖北省で感染が広がっていくと、その様子がつぶさに伝達された。

   いろんな人がにわか解説者になり、危機感を煽るので、恐怖感がますます増幅した。また、人々が以前よりも感染症のリスクをより理解するようになったため、余計に怖く感じるようになったという面もある。

世界はすべて危ういバランスの上に成り立っていた

   中国は世界第2位の経済大国であり、世界のサプライチェーンの中心的存在だ。今は一つの製品を作るのに世界中のネットワークをベースにして、最も効率的に原材料、人材、情報などを組み合わせるというやり方をとっている。それはパズルのように組み合わさっていて、その複雑怪奇な仕組みについて、誰も全体像が把握できてないような状況だ。

   スマホの組み立て工場で、どれか一つのパーツが調達できなくなると、それだけでスマホの生産は完全にストップしてしまう。中国に限らず、世界中の生産拠点のどこかに問題が起きると、それがそのまま世界の製造業全体のボトルネックになってしまう可能性がある。

   先進国に住む我々は、便利で心地よい生活に慣れっこになってしまった。どこにでも(海外にも)自由に行き来ができる、カネを出せばどんなものも手に入る、教育や医療など基本的なサービスを当然のように受けられる、スポーツ観戦や音楽鑑賞などをいつでも楽しむことができる、etc......である。

   しかしこれらは、じつはすべて危ういバランスの上に成り立っていたことを、新型コロナウイルスによって思い知らされた。今や移動が制限され、学校が閉鎖され、医療の崩壊が懸念され...... という状況になり、国民の動揺はピークに達した。

   それに加えてサプライチェーンが機能不全に陥ると、経済への悪影響は長期に続いていくかもしれない、大変だ......。これが株式の暴落を呼んだ。

   しかし、株価の下落は経済の実態を反映したものなのか、というととてもそうとは思えない。

   株価は理論的には将来の企業利益を反映している。株価についての最も一般的な指標はPE(株価収益率)である。これは株価が一株あたりの当期純利益の何倍あるかを示したものだ。仮にある企業の今年が大赤字であったとしても、来年以降に復活していくと見られれば、その予測がベースになってそれなりの株価がつくということだ。

「明るい未来」は我々一人ひとりの「頑張り」にかかっている

猛威をふるう新型コロナウイルス(国立感染症研究所提供)
猛威をふるう新型コロナウイルス(国立感染症研究所提供)

   今回の騒ぎでとりわけ大きく影響を受けているのは、娯楽、旅館、航空などの業界である。しかし、今回のことが原因で、人々がこれから10年、20年という期間にわたって旅行に出るのを控えたり、スポーツ観戦をやめてしまったりなどといったことが起きるはずがない。早晩これらの業界に客が戻っていけば、企業収益も復活する。そうだとすれば、今のような安い株価は(理論的には)おかしいわけで、投資家がパニック売りを止めれば株価も戻していくのではないか、と考えられる。

   大地震や戦争や恐慌などが起きると、人々はこの世の終わりだと思ってしまうのはやむを得ない。実際、経済を復活するまでに数年から十数年かかるケースも多々ある。これがほぼ最悪のシナリオだろう。

   しかし、経済は中長期的には必ず復活してきた。まして今回は、とてもそれだけのダメージが発生したとは思えない。仮に本当に世界経済が崩壊したらあきらめるしかないだろうが、そのような「この世の終わり」が来たら、株価云々のレベルの話ではなくなる。

   「明日死ぬかもしれない」ことを心配するのは生産的ではない。我々は明るい将来を築いていくような思考をすべきだ。

   今回の新型コロナウイルスの影響は、中国を始め多くの国で収まりつつある。これから気候が温暖になると危機的な状況は徐々に去っていくのではないか。それ以降も拡散は続くだろうが、いずれは体内に抗体が出来るかワクチンが開発されることで巡航速度に落ち着くであろう。

   今後も数年に一度はこのような世界的流行が起きることが予想される。これを短期間に根絶させることは不可能であり、我々は感染症とうまく共存しながらダメージを最小にすることを目指すしかない。

   しかし、それは十分可能ではないかと考える。数十年のスパンでみると感染症の死者は着実に減少してきた。医療の発達、衛生の改善などの、さまざまなことがそれを可能にしている。今後さらに明るい未来が開けるかどうかは、我々一人ひとりの頑張りにかかっている。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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