2024年 4月 19日 (金)

【襲来!コロナウイルス】急浮上「9月入学・新学期」に戸惑う受験生や教育現場 「安倍政権に明治以来の大改革ができるの?」の声が殺到する理由

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   新型コロナウイルスの感染拡大によって学校の休校が長期化していることを受け、新学期スタートを9月にしようという動きが急浮上している。実現すれば、明治以来の「4月入学・新学期」という学校教育の伝統どころか、社会全体の幅広い制度の大改革につながる。

   2020年4月29日の衆院予算員会では安倍晋三首相が「前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」と前向きに踏み込んだ答弁を行い、一気に導入の流れに進んだかにみえる。

   ネット上では、

「9月入学は世界のスタンダードだ。コロナ禍をチャンスととらえて日本社会の大改革を進めるべきだ」

   という賛成意見と、

「どさくさに紛れて今、断行するにはあまりに影響が大きすぎる。じっくり時間をかけて進めるべきだ」

   という反対意見が大激論を交わしている。ネットの声を拾うと――。

  • 安倍首相に明治以来の大改革ができるのか
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高校生のツイートから広まった「9月新学期」の動き

   4月29日の衆院予算委員会での「9月入学・新学期」に関する国民民主党の玉木雄一郎代表の質問に対しては、萩生田光一文部科学相も安倍首相以上に前向きの答弁を行なった。

「そんなに簡単なことではないが、この状況ではいろいろなことを考えていかないと学びの補償はできない。わが国の社会全体として広く国民の間で認識が共有できるなら大きな選択肢の一つだ」

   と述べ、政府全体が「9月入学・新学期」に動き出していることを示唆したのだった。

   そもそもこのアイデアはどこから出たのか。朝日新聞(2020年4月28日付)「9月始業じゃだめですか 学校再開見通せぬなら...」によると、高校生の「学期の始まりを9月にして僕たちの学校生活を守る話」という4月1日のツイートがきっかけのようだ。9月始業を提案する内容に、9万7000以上の「いいね」がついた。

   ネット署名サイトでも9月始業も求める声が複数あり、大阪市の公立高校生が「全員が9月から平等に教育を受けられるようにしてほしい」と呼びかけるサイトや、東京都内の公立小学校に子どもが通う保護者の「教育格差を広げないで」というサイトなどを、朝日新聞は紹介している。

   こうした動きが野党や知事たちに広がった。毎日新聞(4月29日付)「9月入学案急浮上 休校長期化、知事らも要請」が、こう伝える。

「9月入学案は今週に入り野党を中心に急な動きを見せ始めた。国民民主党は27日、実現に向けたワーキングチームを発足させた。日本維新の会も同日、9月入学を盛り込んだ提言をまとめた。宮城県の村井嘉浩知事は27日の会見で『入学時期を9月にずらすことも大きな方法』と述べ、知事会を通じて政府に提案する考えを明かした」

   この提案に、大阪府の吉村洋文知事や東京都の小池百合子知事も賛意を示したのだ。

国際化のチャンス! 「9月入学」は意外に簡単?

   ところで、手続き上の問題はどうなるのか。産経新聞「『9月入学』議論に熱」によると、入学を4月から9月に変えること自体は意外に簡単だという。

「4月に新学年の始業を迎える現行制度は学校教育法施行規則で規定されているだけで、制度改正のハードルはそう高くない。すでに、大学は2008年の規則改正で学長が独自に学期始めを定められるようになった」
「9月入学」導入を目指し、挫折した東京大学
「9月入学」導入を目指し、挫折した東京大学

   実際に東京大学は2011年、優秀な留学生が集められない背景には、国際的には「9月入学」が主流で、日本が遅れていることにあるとして、「9月入学」導入を検討した。しかし、高校卒業後の空白期間や、多くの企業の採用時期とずれるため断念した経緯がある。

   ただし大学入学以外では、課題は山積みだ。日本経済新聞「9月入学、実現へ課題多く 移行期の調整必要、法令の改正多岐に」が、こう説明する。

「学校は子どもの受け皿になっており、移行期の4月~9月について、保育所の受け入れ態勢を検討しなくてはならない。3月卒業にあわせて設定している公務員など公的資格試験とのずれの調整も必要だ。これまでの『年度制』を基本とした関係法令の改正も不可欠だ。会計年度を規定する地方自治法や財政法など多岐にわたる」

   というから、行政の膨大な作業にくわえて社会のコンセンサスが必要になる。

   さて、「9月入学・始業開始」になると、どんなメリット・デメリットがあるのだろうか。産経新聞と日本経済新聞(ともに4月29日付)の表をまとめると、こうなる。

【メリット】
(1)休校措置が長期化した場合にうまれる教育格差を是正できる。
(2)秋入学が主流の海外と合わせることで、留学がしやすくなるし、優秀な留学生も受け入れやすくなる。また、国際化を促すことになる。
(3)受験時期が夏になり、積雪やインフルエンザなどに左右されなくなる。
(4)(今年度にかぎり)遅れた学習を焦らずに取り戻すことができる。
【デメリット】
(1)就職時期や国家試験の日程などの見直しが迫られる。
(2)4月から始まる国や地方自治体の会計年度とズレが生じる。
(3)ここ約100年間、「4月入学」が文化・習慣になってきたため、国民的な理解が得られるか不透明。
(4)(移行期)私立校の収入減による経営悪化が懸念される。

   ネット上では、どんな意見が多いのだろうか。ヤフーニュース「みんなの意見」が「新学期の9月開始、どう思う?」と緊急アンケート調査を行ったところ、2020年4月29日正午現在(投票総数6万5247票)では、「賛成」(72%)、反対(22%)、「どちらとも言えない」(6%)で圧倒的に多くの人が賛成だった。

   しかし、個々の投稿意見を見ると、「反対」の人のほうがほとんどという、不思議な逆転現象がみられる。

   まず、「賛成派」の代表的な意見をみてみよう。

「9月入学は、欧米や中国など世界の多くの国々が採用しており、外国人留学生も増えることになるだろう。ただ、卒業が夏になるので、多くの企業や官公庁で4月に新卒者を採用する雇用慣行がネックとなる。日本企業も通年採用を増やせば、学生もボランティア活動や海外留学などに充てる『ギャップ・イヤー』(編集部注:高校卒業から大学への入学、大学卒業から大学院への進学までの期間のこと。欧米ではこの期間をあえて長く設定し、その間に大学では得られない経験をすることが推奨されている)を取りやすくなるメリットがある。9月入学は、日本の教育制度や雇用慣行などを幅広く見直すいい好機になる」
「この際だから、今だからこそ、現実的に検討して欲しい。子どもファーストで考えることが大切だ。このまま5、6月もまともな授業ができない状態が地域によって続くようだと、学力格差がかなり大きくなり、受験が不平等になる。既存のしがらみを脱却して変革するチャンスだ」
「混乱はあると思うが、だらだらコロナが続き、また1か月、また1か月と延長し続き心が乱されるくらいなら、9月スタートにしてもらったほうが気持ちはスッキリする」
「私は中学生の子供がいますが、9月スタートでも全員1年留年でも賛成です。一番イヤなのは、見切り発車で休校を解除して、またちょっと登校しては感染者が増えて、また休校の繰り返しで、子供たちの心身が摩耗することです。どちらにしても9月スタートを決めて、その間のオンライン授業の整備を急いで欲しいです」

高校3年生「自分たちの代だけなぜ混乱続きなの?」

   一方、反対の意見では、制度改正にともなう疑問点を指摘する人が多い。こんな意見に代表される。

「素朴な疑問ですが... 今年9月の小学1年生は今年8月までに生まれた子も入るのですか? そうなると1学年だけ人数が1.5倍になってしまいますが、これまで通りの生まれ月でいくのかな?」
「私もそれが疑問。今年新1年生の子の中で9月~3月生まれの子たちはまた1年間1年生をやらないといけないわけですか? それではおかしいから、学年は今まで通り4月~3月で切って9月始まりにすればいいんじゃない?」
「今、保育園年長のわが子は、来年8月まで保育園児で、9月に入学? しかも1学年下の4月から8月生まれの子も同時に入学? 年中から一気に小学生に? 何がなんだかわからなくなったから、考えるのをやめました」
入学式といえば桜の季節が定番だが......(写真はイメージ)
入学式といえば桜の季節が定番だが......(写真はイメージ)

   確かに、拙速に「9月入学」に移行した場合、「泣く人」もまた非常に多く出てくるだろう。9月入学自体には賛成だが、移行期に泣く人が多数出るため、実際にやるのは困難だという声はわからないでもない。

   また、「欧米並みの制度に」という賛成派に対しては、こういう疑問の声もある。

「このまま延期する形での9月入学が導入されると、欧米並みの9月入学になるのではなく、欧米から1年遅れの9月入学になる。日本では6歳の9月に小学校入学。欧米では5歳の9月に就学開始。日本では19歳の9月に大学入学、欧米では18歳の9月に大学入学。永遠に日本人は欧米から見たら、小学校入学時点で国民全員すでに一浪している状態と同じ。いったい日本の教育はどうなるのでしょう。これでどう世界と戦えと?」

   さらに反対者の多くは、「この混乱のさなかに、さらに混乱を招くつもりか!」「受験生が気の毒だ!」という怒りの声だ。

「半年前に民間試験での大学入試改革でさえできなかった政府に、こんな短期間で明治以来の教育制度を変えられるとはとうてい思えません」
「高校3年生です。いろいろな案を出して下さることはありがたいのですが、残り4か月で舵をきることは現実的ではないと思います。共通テストの記述式の失敗に加え、これ以上の混乱を自分たちの代から始めてほしくありません。この問題は何年もかけて議論した上で実行すべきことだと思います」
「インフルや大雪の時期に入試がないからいいという意見が散見されるが、7月~8月の入試では台風や猛暑の心配もあるわけで、冬の入試と差はないと思います」

   そうでなくてもコロナ対策に追われている教育現場や行政の現場が、さらに大混乱に陥るという声が多かった。

「各地の事務が大混乱するぞ。学校や市町村の教育委員会だけじゃない。児童手当や扶養の問題が絡むから、税務関係の役所もパニックだ。奨学金関係はもう動き出しているから今からシステム変更すると大混乱。学校で必ず行わなければならない検診もずれる。医療現場も今でさえ大変なのにさらに混乱する。職業系の高校に求人を出す企業はもうハローワークに求人票を出す6月に向けての採用計画を立てている。これも変更するのか? 今年はやるべきではない」
「教育現場で働いているものです。自分も基本9月入学・始業は賛成ですが、今年からの開始は無理です。入学式が終えている学校もあり、授業が開始されている学校もある。修学旅行や運動会などの年間行事の再検討、職員の給料や退職金の見直し、全教科の教育計画の見直し、来年3月で雇用期間が切れる職員などなど学校だけでも問題が山積みです。しかもこれらを4、5か月で、コロナと戦いながら、少数出勤の現状の中で検討していかなければならないと思うと...気が遠くなります」

   「入学を半年遅らせると卒業も半年遅れる。すると学生が社会に出て働くのが半年遅れる。それで起きる大きな問題は二つ。

   (1)親が子供を扶養する期間が半年伸びる。親の子育ての負担が大きくなる。これは本質的に大きい。

   (2)労働人口が減る。減らさないためには定年を半年延長するしかない。学校だけでなく企業も含めた大変更になる。その社会的合意を数か月で取り付けることができるのだろうか。いま導入を主張している人たちは、目先の人気取りで、深く考えていないと思う」

震災被災者「未曾有の大災害で耐えている子どもをほめてあげて」

   いまはそれより、オンライン授業の態勢を充実させることに力を注ぐべきだという声が非常に多かった。

「いきなり9月からに入学・新学期といっても、コロナが収まっていなかったらどうするのですか。オンラインを活用できる環境をつくり、オンライン授業を広げていくことが現実的だと思います」
「自治体によってオンライン授業の普及度はバラバラです。私立の高校はオンラインを活用してどんどん授業を進めていますが、私の公立高校はお粗末な限りです。ほぼ自宅での自習に任せている状態です。萩生田文部科学大臣にお願いしたいです。自治体はあてにできませんので、国が強力なリーダーシップを発揮してオンライン授業の環境整備を進めてほしいです」

   ところで、今回の「9月入学・新学期」導入問題にからみ、結構多かった投稿は、「阪神淡路大震災」や「東日本大震災」の時には、なぜこの議論が起こらなかったのか、震災被災地の人々はどうやって学校教育を乗り切ったのかという疑問の声だった。こんな意見に代表される。

「我が家には高校1年と高校3年の子がおり、9月入学はイヤがっています。なので、子供の気持ちを考えると私は反対です。しかし、東日本大震災や阪神淡路大震災の時は、学習の遅れについて政治家が問題にしなかったのはどうしてなのでしょう? また、当時どのように乗りきったのでしょう?」

   これに対してこんな回答が寄せられた。まず、東日本大震災の被災者は――。

「東日本大震災の時、5月の連休明けまで学校を再開できなかった地域もありました。福島第一原発の周辺の地域の小中学生は転校を余儀なくされました。私の出た高校は福島県内の私立ですが、夏休みをほぼ全部授業にしました。エアコンが使えなくて汗びっしょりでした」

   阪神淡路大震災の被災者は、こう呼びかけた。

「私は被災した際、中学生でした。自分も被災し、中学校も避難所になっていて、2、3か月は授業がなく、学校に行って配給されたパンを配る手伝いをしていました。電気もガスも水もなく、水を山まで汲みに行きました。授業が再開されてから勉強の遅れを取り戻すため、ハイスピードな授業をした記憶はありません。時代が違うといえばそれまでですが、私はいま子どもさんの教育を心配されている親御さんに伝えたいことがひとつあります。それは焦らなくてもよいと思うということです。いま自宅待機して、未曾有の大災害で耐えている子どもをほめてあげてください。いつかこの経験が必ず役に立つ時がきます。私にとっても震災でつちかった忍耐力や人生観は、2か月遅れた授業とは比べ物にならないぐらい大切な勉強でした」

(福田和郎)

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