仕事と子育ての両立はやっぱりドイツ! コロナ禍だからこそ働く親に手厚い支援を(神木桃子)
ひと月前には思いもしなかったスピードで、新型コロナウイルスの感染が再拡大しているドイツ。ロックダウンとなれば、学校や保育施設は閉鎖。働く親の両肩には、仕事と子供の世話が重くのしかかってきます。
ところがドイツでは、日本にはない制度を利用して、仕事や収入を維持できている例があるようなのです。
感染再拡大で「ローカルロックダウン」導入の地域も
左は3月から10月までの一日ごとの感染者数を表したグラフ。右は7日間発生率(直近7日間の10万人あたりの新規感染者数)を行政区ごとに色分けした地図。基準値を超えた赤いリスク地域が半数以上を占めている(出典:Robert Koch Institut)
ドイツの学校では10月初旬から11月初旬にかけて、州ごとに時期をずらして2週間ほどの秋休みが設けられています。旅行などで、おのずと人の移動が増える時期ですが、今年はなんといってもコロナ禍。多くの州が感染者の多い地域からの旅行者に対して、48時間以内の陰性証明書持参を義務づけています。
周囲からは「この状況だと旅行には行きづらい」「そこまでするくらいなら、旅行はキャンセルする」といった声が漏れてきます。この措置が抑止力になるかと期待をしていましたが、感染者数は日に日にうなぎのぼりに。10月20日には、ホットスポットとなったドイツ南部のベルヒテスガーデナー・ラント群(人口約10万人)が、ついにローカルロックダウンの状態になりました。外出の大幅な制限に加え、学校や保育施設の閉鎖、イベントの中止、飲食店の営業禁止など、今年の春以来となる厳しい措置がとられています。
そして10月22日に、ドイツで感染が広がり始めてから初めて、新規感染者数が1万人を突破しました。メルケル首相はこの状況を受けて、10月24日にビデオポッドキャストを配信。「私たち全員にとって、この時間の急務は接触を減らし、会う人をできるだけ少なくすることです」と強調し、不必要な旅行やお祝いを控えるよう、市民に訴えました。
シングルマザーでも仕事と収入を維持
ロックダウンの可能性が現実味を帯びてくるなか、ドイツでフルタイムの正社員として働く日本人シングルマザーのYさん(40代)に話を聞いてみました。
日本では新型コロナウイルスの影響で、収入が減ったシングルマザーが半数近くにものぼると報じられていましたが、彼女の場合はどうなのでしょうか。
小学生の娘がいるYさんは、ロックダウン中も仕事を続け、収入も維持できていたそうです。その理由を、彼女は次のように語っています。
「(小学校閉鎖中に)緊急保育がなかったらやっていけなかったと思います。ホームオフィスだったけど、娘と一緒だと仕事が進まなくて......。通っている小学校と学童で面倒を見てもらえたので助かりました」(Yさん)
この「緊急保育(Notbetreuung)」とは、コロナ対策として州ごとに講じられている特別措置のひとつ。親が社会生活を維持するうえで不可欠とされる職業についている場合、子供は緊急保育を受けることができます。年齢は12歳(小学校6年生)までで、預け先は学校や保育施設など。親がホームオフィスでは仕事ができないことが前提です。
Yさんの住むノルトライン・ヴェストファーレン州では、いわゆるインフラ分野の医療や介護、公共交通機関、警察、消防などから、食品スーパーやガソリンスタンドのスタッフ、教師、弁護士など36にもおよぶ業態、そしてさらにひとり親がこの支援の対象となっています。そのため彼女もホームオフィスでありながら、緊急保育を利用することができたのです。
そして、緊急保育と同様に「欠かせない」と話すのは、「子供病気手当(kinderkrankengeld)」の存在です。
じつはドイツでは、子供の病気が理由で親が仕事を休まなくてはならない場合、その分の給与を保険会社が補償してくれる制度があるのです。対象は公的保険加入者のみ、子供は12歳以下、他に面倒を見るひとがいない場合に限るなどの条件があります。そしてこの支援制度、年内いっぱいはコロナ禍の特別措置として、補償される日数が追加されているのです。
これがもし日本だったら、どうでしょうか――。
周囲のサポートが受けられない場合、多くの親は有休をとって仕事を休むか、料金を支払って病児保育などのサービスに頼るしかありません。子供に不測の事態が起こったときに、働く親に負担を強いるような社会では、多くの人材が活躍する機会を失ってしまいます。
Yさんも、「子供を育てながら仕事をするならドイツですね」と話しており、直接的な支援があってこそ、働きやすさにつながるのだと感じさせられました。(神木桃子)