2024年 4月 26日 (金)

コロナ禍で保険料率の引き上げ必至? 赤字運営の危機、企業の健保組合は青息吐息(鷲尾香一)

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   新型コロナウイルスの影響で、企業の健康保険組合の運営が危機に陥っている。

   このままだと、2021年度には企業や従業員が納める保険料率が、健保解散の危機水準の目安10%を上回ることになりそうだ。

  • コロナ禍で健康保険組合の運営が危機的状況に……
    コロナ禍で健康保険組合の運営が危機的状況に……
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サービス業、中小企業の健保組合に大打撃

   健康保険組合連合会(健保連)は2020年11月5日、「新型コロナ禍による健保組合の財政影響」を発表した。それによると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で企業業績が悪化し、標準報酬総額などの低迷が長期化する見通し。「健保解散」の目安と見られている保険料率10%への上昇が、当初予想の22年度から21年度に早まると予想されている。

   健保連では、新型コロナの影響により、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業(観光業含む)、運輸業、卸売業など特定の業種の健保組合や、中小企業を中心とする総合健保組合が大きな影響を受けているとし、「このままでは保険給付や拠出金といった義務的経費の支払いに支障が出る恐れがある」と危機感を露わにしている。

   健保連の見通しによると、全国約1400の健康保険組合の合計保険料収入は19年度が8兆2438億円だったが、20年度には7兆9400億円、21年度には7兆6600億円、22年度には7兆6100億円に減少する。

   19年度は、保険料収入から支出である保険給付費4兆1177億円と高齢者拠出金3兆4344億円を差し引いた経常収支差引額は2501億円の黒字だったが、前年度と比べて黒字幅が551億円減少した。個別の健保組合ベースで見た場合、赤字組合は前年度から62組合増加し、484組合となった。

   保険料収入のベースとなる保険加入者の平均標準報酬月額は前年比0.5%上昇したが、平均標準賞与額は同0.3%減少した。この結果、平均保険料率は前年比0.01ポイント上昇して、9.22%だった。

   これに対して、20年度は新型コロナの影響による企業業績の悪化で賃金が低下し、保険料収入が7兆9400億円に減少する見込み。平均標準報酬月額は前年比1.6%減少して37万1288 円、平均標準賞与額は同15.0%減少して95万5142 円と予想している。

   保険給付費は新型コロナによる受診控えの影響で4兆900億円に若干の減少、高齢者拠出金は3兆5300億円への増加を予想し、保険料率の平均を9.219%に固定した場合、経常収支差引額は当初予想の2316億円の赤字から2404億円の赤字に拡大する。新型コロナウイルスの発生前よりも100億円の悪化を見込んでいる。

保険料10%が健保解散の危機水準!

   問題は、収支の均衡に必要な保険料率である実質保険料率が9.7%にまで上昇することだ。実質保険料率が10%を超える組合は512組合となる見込み。保険料率10%は中小企業の従業員などが加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の料率で、保険料率が10%を超えると、企業は自前で健保組合を持つ利点が失われることから、「健保解散の危機水準」とされている。

   2021年度は保険料収入が7兆6600億円に減少する見込み。平均標準報酬月額は前年比1.2%の減少、平均標準賞与額は同6.8%の減少を予想している。

   保険給付費は4兆2400億円に増加、高齢者拠出金は3兆5500億円へ増加を予想。保険料率の平均を9.219%に固定した場合、経常収支差引額は6700億円の赤字に拡大する。新型コロナウイルスの発生前よりも2400億円の悪化を見込む。実質保険料率は、健保解散の危機水準10%を超え、10.2%に上昇すると予想されている。

   22年度は、保険料収入が7兆6100億円に減少する見込み。平均標準報酬月額、平均標準賞与額の具体的な予想はしていないが、低下を見込んでいる。

   保険給付費は4兆4000億円に増加、高齢者拠出金は3兆6100億円へ増加を予想。保険料率の平均を9.219%に固定した場合、経常収支差引額は9400億円の赤字に拡大する。新型コロナウイルスの発生前よりも3300億円の悪化を見込む。実質保険料率は、10.5%に上昇すると予想されている。

   健保連では、すでにコロナ対策として保険料の納付猶予を実施しており、その額は8月時点で236億円、年度末には500億円程度に膨らむ見込み。さらに景気の悪化は長期に及び、「現下の状況では事業主による事後納付ができない場合が多いと見込まれる」としており、危機感を高めている。

   結果的に、特定業種だけでなく、多くの業種の健保組合で景気低迷による財政悪化の拡大が懸念され、「大幅な保険料率の上昇を迫られることになる」と予想している。

   もし、保険料率が大幅に引き上げられれば、企業と従業員の保険料負担が増大し、さらに負担に耐えられなければ、健保組合そのものの解散という選択肢を選ぶ企業が続出することになろう。

   なお、参考までに健保連が平均標準報酬月額と平均標準賞与額の予測ために8月に行った「報酬総額調査」(回答:1021組合)の結果が興味深いため、一部を掲載しておく。

   2020年度の見込みは、平均標準報酬月額が前年比1.6%減、平均標準賞与額が同15.0%減で、業種別では以下のようになっている。

《平均標準報酬月額の減少が大きい業種》
電気・ガス・熱供給・水道業   5.4%減
生活関連サービス業、娯楽業   5.1%減
繊維製品製造業         3.2%減


《平均標準賞与額の減少が大きい業種》
生活関連サービス業、娯楽業   54.7%減
宿泊業、飲食サービス業     50.5%減
印刷・同関連業         27.7%減

(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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