2024年 4月 26日 (金)

【新春対談】社員が幸福な会社は強い会社になれる! カルビーがモバイルワーク定着のために取り組んだこと(1)

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   「社員の幸福度で会社の業績が変わる」――。「しあわせ経営」と呼ばれる、こうした考え方が企業で注目されるようになってきた。

   その一つ、カルビー株式会社では、社員にとってより柔軟で働きやすい仕組みづくりを求めて、2020年7月に新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえたニューノーマルな働き方を掲げ、モバイルワークの標準化やフルフレックスタイムの導入、単身赴任の解除などを実施。柔軟な働き方を導入した。

   幸福学研究の第一人者である慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授と、カルビーの人事・総務を担当する武田雅子常務執行役員(CHRO 人事総務本部長)に、幸せな経営や新たな働き方について、語ってもらった。

  • カルビーはいち早く「しあわせ経営」を取り入れた(写真は、カルビーの武田雅子常務と慶応義塾大学大学院の前野隆司教授)
    カルビーはいち早く「しあわせ経営」を取り入れた(写真は、カルビーの武田雅子常務と慶応義塾大学大学院の前野隆司教授)
  • カルビーはいち早く「しあわせ経営」を取り入れた(写真は、カルビーの武田雅子常務と慶応義塾大学大学院の前野隆司教授)

「ものづくり」は人を幸せにするためにある

―― 前野教授は「幸福学」について研究されていますが、「幸福学」とは、どのような学問なのでしょう。

前野教授は「幸せな経営とは、どういうものかを研究する」と話す。
前野教授は「幸せな経営とは、どういうものかを研究する」と話す。
前野隆司さん「『幸福学』とは文字どおり、幸せについての学問です。基礎学問から応用学を含めた、いわゆる『ウェルビーイング』※(well-being)の研究ともいえます。もともと、1980年代くらいから心理学者を中心に『ヒトはどうしたら幸せになるのか』といった研究はありました。『感謝すると幸せになる』『自己肯定感が高いと幸せになる』とか、いろんな研究が世界中で行われていたんですね。
私は、エンジニア出身でロボットの研究をしていましたので、いわゆる『ものづくり』に関わってきたのですが、なんのための『ものづくり』か、と考えたときに、結局は『人が幸せになるため』というところに行きついたんです。そこで、心理学の『ヒトはどうしたら幸せになるか』で、わかったものに対してエビデンスやデータを使って、では幸せな経営がどういったものか、幸せな食品、幸せな家、幸せな街、幸せな教育とはなにかといった応用分野を10年ほど前から研究しはじめました」

   ※ well-being=人が精神的・身体的・社会的に『良い在り方』『良い状態』であること

―― その中で「しあわせ経営」という分野が最近、企業に注目されていますね。そこでの発見はどのようなものだったのでしょうか。

前野さん「ひとつには、『幸せな人は、不幸せな人より生産性が1.3倍高い』というアメリカの研究結果があります。もう一つは、『幸せな社員は、不幸せな社員より創造性が3倍高い』という結果です。つまり、3倍もアイデアが沸いて、新規事業とか新しいポテトチップスの構想をドンドン思い付くっていうことです。それから、幸せな社員は心の病になりにくく、欠勤率も低い。『辞めたくなってしまう』離職率も低いんですよ。ほかにも『幸せな社員は出世する』『幸せな社員はマジメである』などの良い結果がわかってきました。つまり、幸せな社員がいる会社が成功する。なので、まずは社員を幸せにしましょうということです。カルビーさんも、特に昨年(2020年)から社員の幸せにつながるようなさまざまな働きやすさの施策を打ち出していますよね」
武田雅子さん「働き方改革といわれていますが、積極的に改革したというよりは、最初のきっかけは新型コロナウィルスの感染拡大でやむを得ず始めたことでした。緊急事態宣言を受けて、自宅で働かざるをえない状況になって、慣れていない中で、それぞれの社員がパソコン(PC)スキルの習得やリモート環境での仕事の仕方を模索してきました。自宅で仕事をしながら、お子さんの送り迎えや通院などプライベートな用事と両立し、生産性を確保してアウトプットを出せるということがわかってきました。
そこで(2020年)7月、『Calbee New Workstyle』を掲げて、オフィス勤務者は原則モバイルワークにし、フレックス勤務のコアタイムを廃止する方向に舵を切りました。通勤の定期代は廃止し、業務に支障がない場合は単身赴任も解除できることにしました」

モバイルワーク2か月で「とても不満」の社員ゼロに

「9月にはリモート勤務が『とても不満』という社員がゼロになりました」と、カルビーの武田常務は話す。
「9月にはリモート勤務が『とても不満』という社員がゼロになりました」と、カルビーの武田常務は話す。

―― 思い切った転換でしたね。でも、社員の反応はいかがでしたか。

武田さん「とても好感触で、『よりいっそう会社に貢献したい』とか『効率的に仕事の時間が組み立てられる分、家族との時間が増えた』といった意見が多くありました。通勤時間がなくなりフルフレックスを導入したことで、時短勤務をしていた社員が自主的にフルタイムに戻ると申し出てくれたケースも結構あります。7月以降、毎月社員にアンケートをとっていますが、『やや不満』はまだ若干名いますが、『とても不満』という人は、9月時点でゼロになり、だんだんと新しい働き方に慣れてきているように思います。
アンケートで『リモートになって新しく始めたことはなんですか』という質問を投げかけてみたのですが、『PCスキルの習得』のほかに『チームで雑談する場所をオンラインで設けた』『オンライン上で勉強会を開いた』というのもありました。リモート環境で働く工夫として、ゆるくつながること、そしてオンライン会議でもできるだけ『顔を見える』ようにするといったいろんな取り組みが現場レベルでなされています。
つい先日、年1回の社員満足度調査の結果があがってきましたが、エンゲージメントの全体のスコアが全社で去年より少し上がっていたことも驚きましたが、人事・制度面についての満足度が上がっていて、うれしかったですね。
多くのメディアに(働き方改革を)取り上げていただいたこともあって、社外の方から『いい会社ですね』と言われることが社員の励みになっているようで。そんな報告があがると、やっぱりうれしいですよね」
前野さん「これまでうかがってきて、カルビーさんはもともと社風として『人に優しい』会社だったんだと思います。それは、人の安全や健康に気を遣う食品を扱う会社だからというところがあるからかもしれません。そんな『優しい』会社が、武田常務という優秀な人材を役員に迎え入れて、さらに良い活動が加速している。好循環が生まれて、『しあわせ経営』の理想に近づきつつあるというふうに思いました」
武田さん「私自身は『リーダー』といっても、部下や周りから何かを言われたら、すぐに行いを直すようなところがありますし、周りの意見や反応を結構気にしながら決定するタイプです。周りがモノを言いやすい雰囲気もありますね」
前野さん「人に優しく気遣いができる面と、ガンガンと物事を推し進める強さと両方をもちあわせていますよね。そういったトップダウンというよりは調和型のリーダーシップは、まさにこのコロナ禍でのリーダーとして、また、『しあわせ経営』の観点からも必要なあり方だと思います」

(聞き手:戸川明美)


プロフィール

武田雅子(たけだ・まさこ)
カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長
1968年東京生まれ。1989年、株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターでショップマスターを経験後、営業推進部トレーニング課長、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役就任。2016年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。
2018年5月にカルビー株式会社に入社。2019年4月より現職。
2018年 日本の人事部HRアワード個人の部最優秀賞受賞

前野隆司(まえの・たかし)
1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。博士(工学)。
著書に、「幸せな職場の経営学」(2019年)、「幸福学×経営学」(2018年)、「幸せのメカニズム」(2014年)、「脳はなぜ『心』を作ったのか」(2004年)など多数。
日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。

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