東京五輪、海外客断念 「経済効果」を切り捨てた菅政権 そして莫大な借金だけが残る(1)

   近代五輪で初めて1年延期となった東京五輪・パラリンピックに、「史上初」のレガシーがまた加わった。2021年3月20日、海外からの一般客の受け入れ断念が東京五輪組織委員会、東京都、日本政府、IOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)の5者協議で決まったのだ。

   インバウンド(訪日外国人客)を起爆剤にして、経済再生を目論んだ菅政権の狙いは頓挫した。

   コロナ禍で何とか「中止」だけは避けるため、経済効果を切り捨てた形だが、いったい何のために開くのか――。疑問と怒りの声が渦巻いている。

  • 五輪中止より経済効果切り捨てを選んだ菅義偉首相
    五輪中止より経済効果切り捨てを選んだ菅義偉首相
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希望的な観測「聖火リレーが始まれば盛り上がる」

   海外客の受け入れ断念が「中止封じの苦肉の策だった」ことを、毎日新聞(3月21日)「五輪海外客断念 中止封じ最優先、経済効果切り捨て」が、こう報じている。

「海外客の受け入れ見送りは『今夏の開催』を優先した判断と言える。新型コロナ感染拡大で開催を危ぶむ声が根強く、水際対策を強めることにした。3月25日には聖火リレーのスタートを控えており、開催への流れを加速させるために先手を打った」

   そこには、かなり都合のよい「希望的な観測」があった。毎日新聞が続ける。

「『海外客を入れないと決めれば、(開催への)世間の支持も高まる。聖火リレーでさらに盛り上がる』。五輪の実務を担う政府関係者は、7月23日の五輪開幕に向けた機運醸成のプランを思い描く。政府は3月18日、緊急事態宣言を解除すると決めた。感染者数が減少しない中での解除は『聖火リレーと無関係ではない』(大会関係者)というわけだ」

   大会組織委にとって最大のネックだったのは、海外客の受け入れを強く主張していたIOCだった。しかし、IOCは「実利」で動く。IOCには「海外客を断念しても自分たちは損をしない」という、したたかな計算があった。

   日本経済新聞(3月21日付)「五輪苦渋の開催優先 ICO、収入の痛手少なく」がIOCのそろばん勘定を、こう説明する。

「(IOCには)妥協しやすい事情もあった。チケットは大会組織委の収入源の一つだが、ICOの総収入は約7割を大会の放映権料、2割弱をスポンサー料が占める。米テレビ局NBCユニバーサルとは長期の契約を結び、東京大会を含む2132年までの計10の夏季・冬季大会の米国での放映権を総額1兆円超で販売済みだ。安全開催という観点に加え、収益面で大きな痛手を受けないことから、IOCも最終的に歩み寄った」

   ところが、日本側の痛手は大きい。特に東京都の負担が大きく増すことになりそうだ。

   朝日新聞(3月21日付)「『完全な形』遠い五輪 観客減で組織委赤字増」がこう指摘する。

「昨年末の時点で、海外分やパラリンピック大会も含めて約900億円と見込まれていたチケット収入が減るのは確実だ。(今後)感染状況の悪化で『無観客』となる可能性もある。観客数が減れば減るほど、組織委が赤字になる可能性は高まる。招致時の立候補ファイル(編集部注:組織委の運営費用負担などを明記した14項目の計画書)には『組織委が資金不足に陥った場合、東京都が補填(ほてん)する』と記されているが、都は延期に伴い1200億円の追加負担を決めている。都財政も悪化しており、都関係者は『穴埋め額が心配だ』。」

IOCの無茶難題「スポンサーの招待客を入れろ」

したたかな計算で「実利」を取ったバッハIOC会長
したたかな計算で「実利」を取ったバッハIOC会長

   約900億円のチケット収入が組織委の収入の柱だっただけに、大変な痛手だ。深刻な問題も待っている。航空券や宿泊料のキャンセル料を、誰が負担するかだ。

   読売新聞(3月21日付)「五輪チケット減収 海外客断念」がこう伝える。

「チケットは、各国・地域のオリンピック委員会(NOC)公認の販売事業者を通じて売った。セット販売された航空券などのキャンセル料について、組織委は払い戻しの対象にしない方針だが、客が日本側に補償を求めることも想定される。海外客が宿泊するはずだったホテルの予約も一斉に取り消される。施設によってはキャンセル料が発生する期間に入っているため、支払いを巡るトラブルの頻発が懸念される」

   こうした負担についてIOCはノータッチの立場で、日本側だけが対応しなければならない。それなのにIOCは新たなトラブルを日本側に持ち込もうとしている。「海外客断念は認めるが、大会スポンサーの招待客は入れろ」と要求しているのだ。

   大会スポンサー料は、米テレビ局の放映権料と並ぶIOCの2大資金源の一つだ。感染拡大の危険より、スポンサー企業のご機嫌を損ねたくないことを優先させたいらしい、

   読売新聞はさらに、こう続ける。

「今後の焦点はスポンサーの招待客やNOC(各国オリンピック委員会)関係者などの入国可否だ。IOCは受け入れを拒否しているが、特別扱いをすれば、各内外からの反発を招きかねず、交渉は難航しそうだ。丸川珠代・五輪相は5者会談で、『多くの制約の下で厳しい生活を続けている日本国民の理解を得るという観点から、アスリート以外の大会関係者については縮減が不可欠』と述べた」

   丸川五輪相は、日本国民が我慢を強いられていることを理解してほしいと、当然の要求をしたのだった。

(福田和郎)

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