所詮はバンカー経営者 東芝・車谷前社長はなぜ引き際を誤ったのか?(大関暁夫)

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東証一部の上場復帰は見事だったけど......

   車谷氏は東芝の生え抜きではなく、もとは三井住友銀行副頭取という経歴をもつ生粋のバンカーです。頭取の一歩手前で出世競争に敗れてCVCに転じ、東芝が不正会計問題に加え米国原発事業で巨額損失を出し、東証一部から二部に降格させられた折の2018年4月、会長(後に社長)兼CEOとして「再建人」の白羽の矢が立ったのです。

   着任後はさっそく財務再建策に着手し、海外原子力事業からの撤退、半導体事業(現キオクシアHD)一部売却による2兆円の資金調達、白物家電およびパソコン部門の売却、約7000人の大規模リストラの断行などを強行し、実質、無借金経営を実現。20年3月期には営業利益で前期の約4倍となる1305億円を計上し、21年1月に同社念願であった3年半ぶりの東証一部復帰を果たしたのです。

   この成果を見る限り、車谷氏の手腕はお見事と言っていいと思います。しかし、アクティビストからの評価は得られませんでした。財務を再建し東証一部復帰を果たしても、それが株価に十分に反映されないならば、アクティビストにとっては意味がないからです。

   アクティビストたちが車谷氏の続投に反対票を投じた背景には、財務再建で氏の役割は終わった。あとは次の人に委ねるべきとの思いを強くしたからに他なりません。彼らの「ポスト車谷体制」要求は、いかに利益を上げられる体質に戻そうとも、成長戦略を描き推し進める力にはまったく欠けている、と考えたからに相違ないのです。

   言い換えるなら、バンカー経営者にモノづくり企業大手の前向きな経営者が務まるのか、という問題提起とも受け取れます。

   そもそも銀行一筋の人間は、モノづくりの現場を肌感覚では知りません。仮に製造業のマネジメントの何たるかを理論的にわかっていたとしても、それはあくまで机上論の域を出ないのではないかということになるでしょう。

   銀行を出て、一から製造現場の実態を肌で学んでいない限り、バンカーが製造業の実現性の高い成長戦略など描けるはずがないと言われれば、おっしゃる通りと答える以外にないように思うのです。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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