2024年 4月 20日 (土)

【6月は環境月間】丸太がそのままバイオマスのエネルギープラントに運ばれている!

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   6月は環境月間だ。環境を保全するためにどうしたらいいのか。最近、よく耳にする「SDGs」(持続可能な開発目標)とは何なのか? 6月は環境に関する本を紹介しよう。

   輸入木材の高騰「ウッドショック」が、国内の住宅産業を直撃している。コロナ禍で米国では在宅勤務が増え、住宅建設やリフォームが進んだことから、製材価格が3倍以上に上昇した。日本でも輸入木材の価格が上がり、住宅価格の上昇で受注を断念する事業者が出始めたという。

   日本には森林がたくさんあるではないか、と思うだろうが、国内の林業従事者が減り、製材のサプライチェーンも貧弱となり、急には供給量を増やせない事情もあるようだ。なぜ、こうした「宝の持ち腐れ」が進んだのか。 本書「森林で日本は蘇る」は、その背景に迫り、「林業の瓦解を食い止めよ」と提言している。

「森林で日本は蘇る」(白井裕子著)新潮社
  • 日本の森林は「宝の持ち腐れ」の状態に……
    日本の森林は「宝の持ち腐れ」の状態に……
  • 日本の森林は「宝の持ち腐れ」の状態に……

高い木が売れなくなった

   著者の白井裕子さんは、慶応義塾大学准教授。早稲田大学理工学部建築学科卒。ドイツ・バウハウス大学に留学。早稲田大学大学院修士課程修了。工学博士で一級建築士でもある。著書に「森林の崩壊」がある。

   日本の森林は多様性、豊かさともに世界がうらやむような資源だという。しかし、全国一律の補助金でコントロールする発想、素晴らしい伝統木造をないがしろにする制度、合理性に欠ける木材を利用したバイオマス発電推進など、国はその活かし方を理解できていない、と批判する。

   製材について詳しく書いている。森林の木は加工されて初めて木材資源になる。丸太は品質によってA、B、C、D材と4つに分けられる。A材は製材に、B材は集成材やそれに似たCLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)、合板の材料に、C材はチップ用、D材はその残りで、今なら再生可能エネルギーの燃料用になる。

   価格はA材が一番高く、順に価格が下がる。2019年現在、総需要に占めるパルプ・チップ用材の割合は37.9%で、製材用材の30.9%を上回る。

   白井さんは「今の日本林業の問題はA材が売れないことである」と書いている。A材を求める木造が規制等で建築が難しい状態が続き、それを挽いていた中小の製材所が激減した。1960年に全国に製材工場は2万4229あったが、2019年には4382と、約5分の1にまで減った。

   山村にあった数少ない産業だった製材所が減り、過疎化に拍車がかかった。だが、国は大規模集約化を進めてきた。住宅の工業製品化が、その背景にある。

   白井さんが懸念するのは「本来A材として売るべき丸太も、B材として売らざるを得ない状況が発生している」ことだ。さらにB材をC材で、C材をD材で、と値段が下がり、用材になるはずだった丸太が、そのままバイオマスのエネルギープラントに流れ出ているという。

   「建築用材をエネルギー利用に回したらお金にならないだろう」と思うが、補助金のマジックがそれを可能にしている。山から木を伐り出す仕事に補助金が下り、売る際にはエネルギーの固定価格買取制度(FIT)により、バイオマス発電から得られる電力も対象になる。「1年に7000万円の補助金をもらい、伐った木の多くをバイオマスのプラントに運んでいる」という山林所有者の話を紹介している。「これでは補助金を使った資源の切り売りに近い」と憤慨し、こう書いている。

「バイオマスに使う木は粉々にするのだから、質は問わず、取引価格は安い。バイオマス利用だけでは、再造林などあり得ない。どこの木を、どう伐り出そうと、コストが安いのが一番。このような価格帯の低い木ばかりの流通量が増えれば、木材価格全体が下がり始める。さらに立木を植えて育てて収穫する技能まで損なわれ、国土保全も覚束なくなる」

なぜ日本ではバイオマスがうまくいかないのか

   含水率の低いヨーロッパの木と違い、日本の杉は200%を超えることもある。おが屑ならまだしも、水分たっぷりの杉の丸太を利用するには乾燥させなければならない。そのために大量のエネルギーが使われるという本末転倒な事態が起きている。

   大型のバイオマスプラントは大量の資源を必要とするため、原料を外国から輸入しているとこともあるという。FITが終わるとどうなるかという議論も起きている。「我が国でも当初からFITの期間だけ、儲けるだけ儲けて辞めるという業者もいる。木を伐ると補助金が貰え、売る際にはFITでお金が貰える。20年保証の官製ビジネスが出来上がってしまった」と書いている。

   さて、お先真っ暗なように思える日本の林業だが、白井さんは「伝統木造」の見直しに光を見出している。法隆寺や厳島神社、出雲大社などは「伝統木造」で建てられたものだ。現在、日本で「一般的となった木造」とは「在来木造(在来工法)」と呼ばれるもので、まるで別物なのだ。

   使う木材も違う。伝統木造が丸太や製材など天然乾燥木材を多く使うのに対し、在来木造では、人工乾燥木材のほか、合板、集成材など木質系工業製品を多く使う。

   「伝統木造」を建築しようとすると、建築基準法が定める「仕様規定」というルールを随所で破ることになり、ほとんど建てられない。しかし、さまざまな実験で耐震性も検証され、地震に強い木造(構法)であることがわかってきた。

   補助金に頼らず自力で森林を守る事業体があることにも触れている。適正な価格で木材が取引されるようになると、日本の林業も生き残れるかもしれない。現場の都合から制度を設計し直すことを強く求めている。

   いま放送中のNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」には、森林組合で働くヒロインが登場している。森林の持つ役割が多くの人に理解され、日本の林業が生き残ることを期待したい。(渡辺淳悦)

「森林で日本は蘇る」
白井裕子著
新潮社
792円(税込)

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