2024年 4月 25日 (木)

話題のMMT(現代貨幣理論)が後押しする「積極財政」 その考え方、実践できるのか?《後編》(鷲尾香一)

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「国債は無制限に発行できるのか」という疑問の答えは?

   さて、いまひとつ明確な回答を得られない質問の2つ目は、

「国債は無制限に発行できるのか。もし、発行の限界があるとすれば、それはいくらなのか」

というものだ。

   数多の積極派の主張を読んだが、この点を明確にしているものはほとんどない。唯一、「インフレが行き過ぎないまで」という非常に曖昧な回答が見られるだけだ。

   この答えは、積極的な財政出動が行われ、市中に供給される資金が増えれば、早晩、インフレが起きる可能性があることは、積極派も健全派も同じだ。

   だが、そのインフレはどの程度の財政出動で発生し、どの程度までを行き過ぎないインフレと呼べるのかは定かではない。そして、前述と同様だが、このインフレが発生した時に、賃金が上昇しており、国民生活がインフレに耐えられるものになっている、という保証はない。

   100歩譲って、インフレが行き過ぎないところまで財政出動を行ったとして、果たして、インフレの状況に合わせて、財政出動をやめることは可能なのだろうか。

   なぜなら、日本は議会制民主主義の国であり、財政出動を含めた予算は国会審議によって決定されている。インフレ自体を予見し、的確に把握することは難しい。しかしもし、インフレの兆候が見え、インフレが加速した時に、果たして予算の執行を止められるのだろうか。

   こうした点を考えると、MMTを中核とした「財政積極論」は、理論上は正しい部分もあるが、それを実践するには、実務面で議会制度を含めたさまざまな法律やルールの変更が必要であるだろう。

   少なくとも、「政治が決断すれば、すぐにでも可能な実践的なものではない」と言える。

   最後に、国債のほとんどが国内で保有されているため、財政を積極化して国債を増発しても影響が少ないという考え方は、為替円安の進行を引き起こす可能性があることは前述した。

   同様に、現在の膨大な財政赤字が、円の信認を損なわずにいられるのは、財政破綻したギリシャとは違い、日本が経常黒字国である点も大きな要因だ。

   しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、日本がしばらくの間、貿易赤字に転落し、経常黒字幅が毎月縮小するという状況だったことは、肝に銘じておく必要がある。

   もし、経常赤字に転落するような事態が起きた時には、日本の財政赤字は円の信認を損なう要因になり、急激な円安進行を引き起こすかもしれない。

   なお、新型コロナ禍にあっては、その対策のために積極的に財政出動を行う必要があるのは、言わずもがなであることを申し添えておく。

(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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