「東芝」経営再建、投資家から8件の「非上場化」提案...このまま買収の方向で進むのか? 今後を左右する3つの「論点」とは

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   経営再建に取り組む東芝が、非上場化に向って動いているようだ。東芝は、募集していた経営再建策に10件の応募があり、うち8件が非上場化の提案だったと、2022年6月2日、発表した。非上場化の場合、第三者に買収されることになる。

   ただ、原発など安全保障にかかわる事業を抱えることから、海外のファンドによる買収のハードルは高い。6月28日の定時株主総会では、「物言う株主」である海外ファンド関係の取締役が増える見通しで、新しい体制の中で再建の道筋をどのように描いていくか、なお予断を許さない。

  • 東芝の経営再建策に10件の応募、うち8件が非上場化の提案(写真は、東芝本社ビル)
    東芝の経営再建策に10件の応募、うち8件が非上場化の提案(写真は、東芝本社ビル)
  • 東芝の経営再建策に10件の応募、うち8件が非上場化の提案(写真は、東芝本社ビル)

提案の絞り込み、本格的な作業は株主総会後へ

   2015年に不正会計、16年に米原発事業での巨額損失が相次いで発覚した東芝の再建をめぐっては、17年に債務超過=上場廃止を免れるために大規模増資を実施した結果、「物言う株主」が増え、経営方針が迷走する中で、そうした株主との対話にも失敗し、混乱が続いていた(これまでの経緯の詳細は、末尾の関連記事のバックナンバーを参照)。

   直近では、経営側が21年11月、本体から「デバイス」と「インフラサービス」をそれぞれ分離するなどの「3分割案」をまとめた。しかし、物言う株主の反発を受け、22年2月に、記憶装置などの「デバイス」を切り離し、本体は原発を含む発電設備などを手掛ける「インフラサービス」とする「2分割案」に修正し、3月の臨時株主総会に提案したが、否決された。そこで、非上場化を含めて再検討することに方針転換し、5月30日締め切りで再建策を募集していた。

   6月2日の発表では、2030年度までを見据えた新たな中長期の事業計画も説明。そのなかでは、データサービス事業を収益の柱に据え、2025年度に現在3.3兆円の売上高を4兆円、営業利益は3600億円へと2.3倍に、30年度に売上高5兆円、営業利益6000億円まで伸ばす目標を掲げた。検討していたエレベーターや照明事業の売却は撤回した。

   経営再建の提案の「非上場化」案は、買収提案と言い換えていい。詳細は明らかにされていないが、米投資ファンドのベインキャピタルなど海外ファンドが手を挙げているとみられ、日本の官民ファンドである産業革新投資機構(JIC)も応募したことがわかっている。

   東芝は、提案に関し、株式取得価格、その買収資金の調達方法のほか、改正外為法にかかわる規制、各国の競争法(独占禁止法)による規制を踏まえた実現可能性などに照らして評価することになる。株主総会後に本格的な作業に入るが、いつまでに判断するかは未定。絞り込み作業の過程で、買収の名乗りを上げた複数のファンドが合従連衡する可能性もある。

官民ファンド「産業革新投資機構」(JIC)の動向がカギ

   今後の作業を展望すると、大きく、3つのポイントがある。

   まず、東芝の経営陣の顔ぶれだ。6月28日の株主総会に諮られる会社提案の取締役候補13人の中で、社内出身者は島田太郎社長ら2人だけで、残り11人は社外取締役。

   すでに株主推薦というかたちで海外ファンド出身者がおり、再任候補6人のうち4人は米投資ファンドのファラロン・キャピタル・マネジメントなどの推薦で就任したとされる。さらに新任候補の2人も、ファンド関係者といわれる。もし、会社提案通りに全員が選任されれば、全取締役13人中6人がファンドの関係者ということになる。

   この新任候補2人について、社外取締役の綿引万里子氏(元名古屋高裁長官)が「株主(ファンド)出身の取締役が増えると公平性を欠く」と反対を表明する異例の事態になっている。

   株主総会後の役員構成がどのようになるか、それが提案を審査する際に、どう作用するか。いまでも、東芝社内では非上場化に慎重な意見が根強いが、物言う株主は積極的とされ、役員間の議論が紛糾する可能性もある。

   2つ目のポイントは改正外為法の規制だ。東芝のように、原発や防衛関連事業など日本の安全保障に重要な事業を抱える企業の買収(株式取得)は、外為法に基づく政府審査の対象になる。

   萩生田光一経済産業相は、6月3日の閣議後の記者会見で、「東芝は原子力や半導体など国家の安全保障に関わる重要技術を保有する企業で、関係する事業が維持・発展していくことが重要だ」として、厳格に審査する考えを強調した。こうなると、海外勢だけの買収はかなり難しいと見られている。

   3つ目が株価だ。東芝株は2021年4月、英投資ファンドの買収構想で、3800円台から4500円レベルに急騰し、直近では春先の4000円程度から、非上場化=買収の可能性が高まるにつれて上昇基調をたどり、足下で6000円目前になっている。

   現在の株式時価総額は2兆5000億円程度で、プレミアムを上乗せし、買収には概ね3兆円の資金が必要とみられるが、「今の株価は高すぎる」(証券市場関係者)との声もある。

   そんな中、最大約3兆円の資金力を持ち、政府の後ろ盾もあるJICの登場を受け、「資金、外為法規制の両面で有力になり得る」(経産省関係者)との声が政府内でも出ている。複雑な要素が絡み、利害関係が錯綜するなかで先行きは見通せないが、JICの動向がカギを握ることになりそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)

<東芝年表>
2015年 4月 不正会計が発覚
2016年12月 米原発事業での巨額損失を公表
2017年12月 6000億円の第三者割当増資
2020年 1月 子会社で不正会計が発覚
2021年 4月 英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案が判明/車谷暢昭社長辞任、綱川智会長が社長に復帰/CVCが買収提案を事実上撤回
2021年 6月 20年の株主総会の運営が不公正だったとの調査報告書公表/株主総会で永山治・取締役会議長らの取締役再任否決
2021年11月 会社を3分割する方針を公表
2022年 2月 3分割計画を2分割に修正
2022年 3月 綱川智社長が事実上引責辞任、島田太郎氏が後任に就任/臨時株主総会で2分割計画否決
2022年 5月 再建計画の提案締め切り
2022年 6月28日 定時株主総会(予定)

<J-CASTニュース バックナンバー>
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