2024年 4月 19日 (金)

「黄金の3年」手にした岸田氏...安倍元総理不在が及ぼす政策への影響とは

   第26回参議院選挙で、与党が大勝した。衆院を解散しない限り2025年までは国政選挙がなく、岸田文雄首相にとっては選挙を気にすることなく政策に打ち込める「黄金の3年間」を手にしたことになる。

  • 経済政策運営に手腕が問われる岸田首相
    経済政策運営に手腕が問われる岸田首相
  • 経済政策運営に手腕が問われる岸田首相

「後ろ盾」安倍氏不在、「アベノミクス」軌道修正ありうるか?

「難局を乗り切るためには平時ではない、有事の政権運営が求められる。総理大臣たる私を中心に、政治がすべての責任を持って決断をし、行政を動かし、徹底的な実行を図る」

   参院選から一夜明けた2022年7月11日、自民党本部で記者会見した岸田首相は新型コロナウイルス対応やロシアによるウクライナ侵攻、物価高への対応といった難題を乗り切るため、自身が先頭に立つと強調した。

   首相が挙げたテーマはいずれも重い課題だが、参院選の勝利で長期政権が視野に入った岸田氏にとって、国民生活の安定が政権基盤の安定に不可欠という意味で、大きな試金石となるのが経済政策運営だ。具体的には、「アベノミクス」の軌道修正に手をつけるかどうかだろう。

   投票日直前に銃撃で命を落とした安倍晋三元首相は岸田氏にとって、政権運営の重要な後ろ盾であると同時に、政策面では「岸田カラー」を封じる重しでもあった。

   岸田派は、参院選前は党内第4派閥。岸田氏が首相の座に就けたのも、党内最大派閥である安倍派の支持があったからこそだ。

   それだけに、安倍氏の意向は政策運営のさまざまな場面に反映された。

   6月に閣議決定した「骨太の方針」に、防衛費を国内総生産(GDP)費2%に倍増させるなど、防衛強化に向けた具体的な方向性が明記されたのも安倍氏の働きかけによるものだ。

注目される黒田東彦・日銀総裁の後任選び

   安倍氏の不在は岸田政権内で今後、さまざまな地殻変動をもたらすことになる。

   とりわけ経済関係者が注目するのは、2023年4月に任期が切れる黒田東彦・日銀総裁の後任選びだ。

   安倍氏は日銀による大規模な金融緩和をアベノミクスの「第1の矢」と位置づけ、日銀の最高意思決定機関である政策委員会の顔ぶれを、黒田氏をはじめアベノミクスに理解を示す「リフレ派」で固めていった。

   22年5月には、日銀の国債買い入れをめぐり「日銀は政府の子会社だ」と発言。現在の金融緩和路線の継続の必要を訴え、黒田氏の後任についてもたびたび言及するなど、岸田氏にアベノミクス路線の継続を働きかけてきた。

   参院選の与党勝利を受け、日銀が当面、金融緩和を継続する可能性が高い。ただ、日米の金利差拡大が歴史的な円安を招き、物価上昇の一因ともなっている。円相場は選挙後に一段と進み、1ドル=137円台をつけている。物価高に消費者がいら立ちを強める中、政府・日銀に対する風当たりも強まっている。

   日銀総裁の交代は、限界が叫ばれて久しい現在の大規模金融緩和の修正をはかる絶好の機会となる。「第1の矢」はアベノミクスの象徴ともいえる存在だけに、その人選が岸田政権の重要な意思表示となりそうだ。

いよいよ真価問われる「新しい資本主義」...岸田カラー発揮されるか?

   岸田政権の看板政策である「新しい資本主義」の真価を問われるのもこれからだ。

   岸田氏は2021年の自民党総裁選などで、アベノミクスによって拡大した格差の是正を打ち出し、「成長と分配の好循環」が必要だと訴えてきた。

   「新しい資本主義」の実現に向け、企業に対する賃上げの働きかけや、「最低賃金の全国平均1000円」の早期実現などを目指している。だが、金融所得課税の強化方針を早々に撤回するなど、高所得者の負担増につながる動きは鈍いままだ。株価対策を重視してきた安倍氏に対する配慮が背景にあるとされるが、今後はより踏み込んだ格差対策も可能になる。

「参院選の大勝で、総理はフリーハンドを得た。岸田カラーが発揮されるのはこれからだ」

   ある政府関係者はこう期待するが、霞が関には安倍氏の不在が政権にとってマイナスと見る向きも少なくない。経済官庁の幹部は、

「与党内の対立や、難しい政策対応などがあっても、これまでは安倍元総理に頼めば調整に動いてくれた。安倍元総理に代わる人材は見当たらない。岸田政権が本気でアベノミクスの修正に動こうとすれば、自民党内で『反岸田』の動きが公然と広がる可能性もある」

と指摘する。

「『黄金の3年間』などという考え方はまったく持っていない。何十年に一度の大きな課題が重複して目の前にある。これを乗り越えるために命がけで取り組んでいく」

   岸田首相は7月11日の会見で厳しい口調でこう語った。自ら楽観を諫めるようなその姿勢からは、一変した政界地図に対する不安も見え隠れする。(ジャーナリスト 白井俊郎)

姉妹サイト

注目情報

PR
コラムざんまい
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中