2024年 4月 25日 (木)

図書館は増え、利用者は減る...いびつな「図書館離れ」 非正規職員は低賃金、課題山積み(鷲尾香一)

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   図書館数は着実に増加しているのに、利用者数が急激に減少している――。文部科学省が2022年7月27日に発表した「令和3年度社会教育調査の中間報告」で明らかになった。

  • 「令和3年度社会教育調査の中間報告」に注目(写真はイメージ)
    「令和3年度社会教育調査の中間報告」に注目(写真はイメージ)
  • 「令和3年度社会教育調査の中間報告」に注目(写真はイメージ)

貸出冊数、右肩下がり...3年前と比べて18.8%減

   同調査はおおむね3年ごとに実施されている。この中で、図書館数は2002年度の2742から2021年度には3400になっていて、658か所(24.0%)増加した=表1

   順調に見える図書館だが、利用者数は大きく減少しており、実態は大きな曲がり角を迎えている。

   2004年度に5万8042人だった一つの図書館当たりの利用者数は、2020年度には4万2304人にまで減少した。実に、1万2558人(22.9%)も利用者が減少したのだ。特に、2020年度は前回(2017年度)から1万1756人(21.7%)もの大幅な減少となった。

   2020年度の大幅減少には、新型コロナウイルスの感染拡大により、一時的に図書館を休館したことや、その後も利用を制限したことなどの影響も大きい。

   だが、2004年度から2020年度の間で増加したのは、2004年度と2010年度の2回だけで、残りの4回の調査では減少している=表2

   この背景には、図書館離れがある。PCや携帯の普及と、これらの媒体で小説や漫画が読めるようなサイトが増加したことで、特に若者層が図書館を利用しなくなっている。

   いまや、図書館は高齢者を中心とした利用に偏っている。毎日、開館と同時に新聞や週刊誌を読みに来る高齢者。日がない一日、図書館の椅子に座って、時間を潰す高齢者は予想以上に多い。

   利用者数の減少は、図書館の貸出冊数にも顕著に表れている。2010年度調査までは増加をたどっていた貸出冊数は、2017年度からは減少に転じた。特に、2020年度は5万3085冊と、2017年度から1万2294冊(18.8%)も減少した=表3

限られた予算で「新刊が少ししか入って来ない」

   2020年度の貸出冊数の減少には、前述の通りに新型コロナの感染拡大の影響があるのは事実だ。だが、問題はそれだけではない。

   筆者の妻は長年勤めた図書館を新型コロナで休館になったのを機に退職した。当時、妻がよく口にしたのが、「新刊を購入する予算が限られており、新刊が少ししか入って来ない」ということだった。

   筆者も4年ほど前に、話題になった経済書を借りるため予約しようとすると、その本は1冊しかなく、75人待ちだったことを覚えている。

   1人が図書館から1冊の本を借りられる期間は2週間だから、75人待ちということは、順番が回ってくるのに最大で150週かかるということだ。1年は52週だから、3年近く待たなければならない。 8000円を超える本だったが自腹で購入し、読み終わった後に妻の勤める図書館に寄贈した。

   いくら図書館を増やしても、読みたい本、新刊本などがなければ、図書館に期待しなくなり、利用をやめることになる。それでは、利用者は増えないだろう。

   この予算問題は「指定管理者の増加」という別の弊害も生んでいる。指定管理者制度とは、2003年9月に地方自治法が改正されて認められるようになった制度だ。

   公の施設の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体を指定して、その施設の管理を代行して行わせることができるというもの。

   法人その他の団体とは、株式会社などの民間営利事業者やNPO法人、その他の団体などのことで、指定を受ける者に制限はない。

   この指定管理者を導入する図書館の割合が急速に増加している。2020年度には公立の図書館3378のうち、20.8%に当たる704が指定管理者を導入している。その指定管理者となっているのは、78.9%にあたる556が一般企業となっている=表4

入札によって決まる「指定管理者」の問題点

   こうした図書館では、館長や数人の図書館司書は正規の職員だが、残りの職員はすべて非正規の職員だ。

   指定管理者は入札によって決められるため、低予算を提示したところが落札する。一般企業で指定管理者になるのは、人材派遣会社が多い。

   低予算で仕事を獲得した分、非正規職員は派遣の形式を採るが、その賃金は非常に低い。ある調査では、最も低賃金の業種として「図書館職員」が1位になったほどだ。

   「あれでは、本が好きで、図書館の仕事に熱意を持った若い人が生計を立てられる給与ではない。結局、いい人材は集まらないし、図書館の魅力が高まることはない」と妻は常々嘆いていた。

   図書館という施設は、数を増やし、低予算で管理運営ができればよい、というものではない。たとえば、本屋の店員がその興味と熱意で、自らが読んで面白かった本を紹介し、それが「本屋大賞」として選ばれ、良書が注目を浴びている。

   図書館にも、こうした本や知識を伝えるという重要な役割があるはずだ。今後、図書館が魅力的な施設となることに期待したい。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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