2024年 5月 19日 (日)

ジワジワ増える「不良債権」...正念場迎える地銀、企業の「ゼロゼロ融資」返済の行方は?

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   2023年は、地方銀行にとって厳しい年になりそうだ――。

   国内106銀行の2022年9月中間期(単独)の「金融再生法開示債権」(不良債権)は8兆6462億円で、前年同期比10.1%増えた。9月中間期では、4年連続の増加となった。東京商工リサーチが2022年12月21日に発表した。

   コロナ禍の資金繰り支援などで抑えられていた企業の倒産が、今年4月から11月まで8か月連続で前年同月を上回ったことなどが原因とみられる。なかでも、貸出金等に占める金融再生法開示債権の比率が高かったのが、スルガ銀行や南日本銀行などの地銀・第二地銀だった。

  • 地方銀行にとって厳しい年に?(写真はイメージ)
    地方銀行にとって厳しい年に?(写真はイメージ)
  • 地方銀行にとって厳しい年に?(写真はイメージ)

銀行の不良債権額、前年比10.1%増 22年9月中間期

   金融再生法開示債権とは、金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(金融再生法)によって、開示が義務付けられている銀行の不良債権のことだ。正常債権を除く、「破産更生等債権」「危険債権」「要管理債権」に区分される3つの債権がそれに当たる。

   東京商工リサーチによると、銀行の不良債権額を業態別にみると、大手行(メガバンク3行とりそな、埼玉りそな、新生、あおぞらの7行)が3兆1967億円で、前年同期と比べて26.9%増と、4年連続で前年同期を上回った。前年同期は2兆5185億円だった。

   地銀(全国地方銀行協会に加盟する62行)は4兆3262億円。前年比で0.8%増となり、5年連続の増加。前年は4兆2897億円だった。第二地銀(第二地方銀行協会加盟の37行)は1兆1231億円。7.5%増となり、3年連続で増えた。前年は1兆447億円。【下のグラフ1参照】

   大手行は、大企業の事業再生もあり、不良債権が大幅に前年同期を上回った。一方、第二地銀は、地元の中小・零細企業との取引も多く、業績回復が遅れた先行きの資金繰りが懸念される中小・零細企業の増加により大きく押し上げられたとみられる。

   また、国内106行のうち、不良債権が前年同期を上回ったのは、大手行5行、地銀38行、第二地銀26行の合計69行で、全体の65.0%の銀行で増えた。ただ、数は前年同期の80行から11行減った。

   金融再生法開示債権比率(中央値)は1.84%で、前年同期の1.82%から0.02ポイントの増加。2018年と19年の9月中間期の1.69%を底に、3年連続で前年同期を上回った。

   金融再生法開示債権の比率が最も高かったのは、スルガ銀行(静岡県沼津市)の10.77%(前年同期14.44%)で、唯一10%を超えた。

   次いで、南日本銀行(鹿児島市)の5.23%(同5.29%)、豊和銀行(大分市)が4.57%(同4.09%)、東日本銀行(東京都中央区)が4.31%(同4.56%)、高知銀行(高知市)の4.05%(同4.43%)と続く。

   上位10行では、地銀が3行(前年は4行)、第二地銀が7行(同6行)だった。最低は、新生銀行の0.37%(同0.61%)で、1%未満は9行(同11行)だった。

【グラフ1】金融再生法開示債権とその比率の推移(東京商工リサーチ調べ)
【グラフ1】金融再生法開示債権とその比率の推移(東京商工リサーチ調べ)

貸倒引当金が増えた銀行は60行

   こうしたことから、取引先の倒産や債務整理などの貸し倒れ(回収不能)に備えた「貸倒引当金」は、2022年9月中間期に、106行の合計で4兆351億円となった。

   前年同期と比べて14.3%増(前年同期は3兆5287億円)で、増加率は前年から3.5ポイント上昇。引き続き10%を超える高い水準で推移している。また、増加は4年連続で、初めて4兆円台に乗った。

   22年9月中間期で貸倒引当金を積み増した銀行は大手行で5行(前年同期は6行)、地銀は30行(同44行)、第二地銀25行(同27行)の60行。銀行数は、前年同期の77行から17行減った。【下のグラフ2参照】

【グラフ2】貸倒引当金とその増減行数の推移(東京商工リサーチ調べ)
【グラフ2】貸倒引当金とその増減行数の推移(東京商工リサーチ調べ)

   ただ、貸倒引当金の積み増しは、銀行の収益状況によるところもある。

   積み増しした銀行数は前年を下回っているが、「業績回復が遅れている中小企業は少なくなく、貸倒引当金が十分かどうかは今後の企業倒産の動向次第」と、東京商工リサーチは指摘する。「転ばぬ先の杖」の効果もある。

   20年2月以降、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、銀行の融資姿勢が消極的になったことで、政府や自治体が資金繰り支援策を繰り出し、企業の倒産を抑え込んだ。

   ところが2022年に入って、その効果が薄れ、4月から11月までの8か月連続で企業倒産は前年同月を上回るようになってっきた。

企業に足かせ「ゼロゼロ融資」の返済

   企業倒産の増加の背景にある「ゼロゼロ融資」は、政府系金融機関で2020年3月、民間金融機関で20年5月にスタートしたものだ。

   「ゼロゼロ融資」は、コロナ禍で売り上げが減った中小企業を対象に、金融機関が実質、無利子・無担保でお金を貸し出す制度。受け付けはすでに昨年9月末で終了。今年4月には最長3年猶予されていた利子補給が終了することで、今後は元本返済の最大5年間の据え置き期間を待たずに返済が始まる企業が増えるとされる。

   中小企業庁によると、融資実績は約243万件、42兆円超。「命綱」となっていたゼロゼロ融資だが、資金繰り支援の「副作用」として過剰債務に陥り、業績回復の遅れで返済原資の確保が難しい企業は多い。

   しかも、目下のところ、これに円安や資源高、物価高、人手不足による人件費の上昇などで、資金負担に耐えきれず「力尽きる」企業が出てくる。

   つまり、ゼロゼロ融資は一時しのぎでしかない。企業倒産がシワリと増えてくるなか、ゼロゼロ融資の返済が始まることで、「不良債権」を抱える融資先がますます増えてくることは予測できた。

   通常、銀行は企業の返済能力を見極めて、融資する。しかし、ゼロゼロ融資は「売り上げが下がった」という理由で借金できる。事実上、赤字補てんのための資金だ。

   さらに、事業再生のための債権カットは、経営責任を明確にする必要がある。しかし、コロナ禍で、かつ中小企業の経営者に経営責任を追及するのは難しい実情もある。

「ゼロゼロ融資」の借り換え、保証限度額は1億円!

   こうしたなか、地銀などが期待を寄せるのが、ゼロゼロ融資の返済負担を軽減するため、政府が創設を計画している「借り換え保証」制度だ。

   中小企業庁によると、ゼロゼロ融資の返済が始まる人は2023年7月~24年4月に集中するという。それに伴い、資金の借り換え需要が増える可能性があるため、対応を検討している。

   新たな借り換え保証制度は、

(1)保証限度額は、民間金融機関のゼロゼロ融資からの借り換えだけでなく、他の保証付融資からの借り換えや新たな資金需要にも対応するため、ゼロゼロ融資の上限額である6000万円を上回る1億円に設定する
(2)100%保証の融資は借り換え後も保証を維持し、保証料は低水準に設定する
(3)保証の対象期間は10年以内とし、借り換えた場合の元本の返済は最長5年間猶予する

――といったイメージ。

   政府は借り換え保証制度を通じて、中小企業の収益力と、地銀などにのしかかる「焦げつき予備軍」の不良債権を減らして経営を強化したい考えだ。

   ただ、一方で、「返済時期を先延ばしするだけのこと」「根本的な解決にならず、ムダ銭になる」「屋上屋を重ねる(不良債権が増える)」「ゾンビ企業を増やすだけ」といった見方は少なくない。

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